雇用保険の適用拡大について
目次
雇用保険の適用拡大に関する主な改正事項
政府が雇用保険の適用拡大に踏み切ったのは、働き方が多様化する中で、パート・アルバイトなどの短時間で勤務する方たちも離職した時や育児が必要になった際などに各種の給付金を受け取ることができるようにするためと言われています。
この雇用保険の適用拡大に関する主な改正事項は次のとおりです。
加入対象となる週所定労働時間の見直し
冒頭で説明しているとおりですが、まず、雇用保険の被保険者となる要件の一つであった「週の所定労働時間が20時間以上」という要件が「週の所定労働時間が10時間以上」に変更になりました。
政府は、この要件の見直しにより、約500万人のパート・アルバイトなどの短時間労働者が雇用保険の被保険者になると推測しています。
基本手当を受給できる要件の見直し
上記の見直しに伴い、あわせて、基本手当(一般的に「失業保険」と言われるもの)を受給できる要件も見直されています。
その理由は、「週の所定労働時間が10時間以上」で雇用保険の被保険者となるのであれば、被保険者が離職後に基本手当を受給できる要件も見直さなければ整合性が取れないからです。具体的には次のように見直されています。
改正前 | 改正後 |
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離職日から1か月ごとに区切った期間に賃金の支払いの基礎となった日数が11日以上、または、賃金の支払いの基礎となった労働時間数が80 時間以上ある月が離職日から2年間に被保険者期間が12か月以上あること。
※特定受給資格者、または、特定理由離職者(※)の場合は、1年間に6か月以上 |
離職日から1か月ごとに区切った期間に賃金の支払いの基礎となった日数が6日以上、または、賃金の支払いの基礎となった労働時間数が40 時間以上ある月が離職日から2年間に被保険者期間が12か月以上あること。
※特定受給資格者、または、特定理由離職者(※)の場合は、1年間に6か月以上 |
※「特定受給資格者」とは、倒産・解雇等の理由により再就職の準備をする時間的な余裕がなく離職を余儀なくされた方のことを言い、「特定理由離職者」とは、「特定受給資格者」以外の方であって、期間の定めのある労働契約が更新されなかったことやその他やむを得ない理由により離職した方のことを言います。
失業認定期間中に収入があった場合の取り扱いの見直し
離職した方がハローワークで失業認定を受け、基本手当の受給資格者になったあと、一定の収入があった場合には、その収入額に応じて基本手当が減額されることがありますが、この取り扱いについても次のように見直されています。
改正前 | 改正後 |
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・失業状態にあることの確認(失業認定)時、労働時間が4時間以上の日については支給対象としない。
・労働時間が4時間を下回る日については、労働によって得た収入額に応じて基本手当を減額する。 |
・1日当たりの労働時間が2時間(週10 時間相当)の日については支給対象としない。
・2時間未満の労働により収入を得た場合でも、一般的には少額であることを踏まえ、業務簡素化等の観点から基本手当は減額しない。 |
雇用保険の適用拡大の施行日
上記の改正事項が施行されるのは、2028年10月1日とされており、今回の「雇用保険法等の一部を改正する法律」により改正される事項の中でも最も遅い施行日になっています。
その理由は、企業にとって最も大きな変更であるため、一定の猶予期間を設けたのであろうと推察されますが、下記のとおり、雇用保険の適用拡大が施行される前に、健康保険・厚生年金保険の適用拡大が施行されますので注意が必要です。
直近で施行されるのは健康保険・厚生年金保険の適用拡大
政府は、雇用保険の適用拡大を決定する前から、健康保険・厚生年金保険の適用拡大も段階的に進めていますが、今年、2024年10月1日から、健康保険・厚生年金保険の被保険者が51人以上する企業では、週の所定労働時間が20時間以上(こちらは「10時間以上」ではないことに注意)であり、その他の要件を満たす短時間労働者は被保険者となります。
雇用保険の適用拡大が施行される前に、こちらの方が先に施行されますので注意してください。
改正事項が施行される前に企業がやっておくべきこと
雇用保険の被保険者となる要件の一つである「週の所定労働時間が20時間以上」から「週の所定労働時間が10時間以上」に変更になることで、企業としてはあらかじめ次のような事項を確認しておく必要があります。
他社でも働いているのかどうかを確認しておく
「週の所定労働時間が10時間以上」であるパート・アルバイトの方がいる場合には、その方が他社でも働いているのかどうかを確認しておく必要があります。
これは、自社のほかに他社でもパート・アルバイトをしている場合、例えば、仮に週の所定労働時間がどちらも10時間以上であり、その他の要件を満たしていたとしても雇用保険には二重で加入することはできないからです。
自社のほかに他社でもパート・アルバイトをしている場合に、どちらで雇用保険に加入するのかについては、次のとおりです。
事例 | 雇用保険の加入手続きを行う会社 |
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①自社での週の所定労働時間が10時間以上で、他社での週の所定労働時間が10時間未満である場合 | 自社 |
②自社での週の所定労働時間が10時間以上で、他社での週の所定労働時間も10時間以上である場合 | 主たる賃金を受ける会社(つまり、原則として給与が高い方の会社) |
③自社での週の所定労働時間が10時間未満で、他社での週の所定労働時間も10時間未満である場合 | 合計して週の所定労働時間が10時間以上になったとしても、1社での週の所定労働時間が何時間であるのかで加入、非加入が決定されるため、自社、他社とも雇用保険には加入できない。 |
なお、健康保険・厚生年金保険の場合には、2つの会社それぞれで加入要件を満たせば、両社で加入することになりますが、保険証(正確には「健康保険被保険者証」)は基本的に給与額が多い方の会社を管轄する協会けんぽ、または、健康保険組合から発行され、保険料については2つの会社それぞれで給与額に応じて徴収することになります。
加入対象となる方には事前に説明しておく
雇用保険の被保険者となる要件の一つである「週の所定労働時間が20時間以上」から「週の所定労働時間が10時間以上」に変更になることにより、該当するパート・アルバイトの方が雇用保険に加入することになれば、雇用保険料を給与から差し引くことになります。
例えば、あるパートの方に1日5時間(休憩なし)、時給1,200円で週3回来てもらっている場合、給与を月ごとに支払っているのであれば、その額は7万円を超えるくらいになりますが、雇用保険料としてその方が負担する額は、給与額×6÷1,000(2024年度の場合)で計算されるため、500円を下回るくらいの額になります。
このため、パート・アルバイトをしている方で、「週の所定労働時間が10時間以上」であることにより、雇用保険に加入することについてそれほど難色は示す方はいないと思いますが、その前に、今年、2024年10月1日から施行される健康保険・厚生年金保険の適用拡大の要件に該当する方は、最低の標準報酬月額(健康保険)である58,000円だとしても、協会けんぽや健康保険組合によっても異なりますが、保険料は概ね1万4千円を超えるくらいになるでしょう。
パート・アルバイトをしている方の中には、配偶者の扶養内で少しだけ働きたいと思っている方もいると思いますので、健康保険・厚生年金保険、また、少し先の話になりますが、雇用保険の保険料を支払うことになるのであれば、働く時間を減らしたいと考える方もいるかもしれません。
雇用保険の適用拡大が施行される前に、上記で説明した健康保険・厚生年金保険の適用拡大が施行される時までに、該当する方にはしっかり説明しておくとともに、この先、雇用保険にも加入しなければならない旨の説明をしておいた方がよいでしょう。
まとめ
雇用保険の適用拡大については、上記で説明したとおり2028年10月1日から施行されますのでまだ少し先の話になります。
一方で、健康保険・厚生年金保険の適用拡大については、今年、2024年の10月1日から被保険者数が51人以上いる企業で、週の所定労働時間が20時間以上(こちらは10時間以上ではない)であり、その他の要件を満たすパート、アルバイトの方は被保険者となります。
企業の労務担当者としては、双方の改正事項をしっかりと押さえておくようにしてください。