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2024年11月18日

従業員からパワハラの相談があった場合の対応について

パワハラ相談

法律上のパワハラの定義と企業のパワハラ防止措置の義務化ついて

パワハラの事例を紹介する前に、まず、パワハラとは法律的にどのように定義されているのか、また、企業にはどのような事が求められているのかについて解説します。

職場におけるパワハラとは?

そもそも職場におけるパワハラとはどのような行為であるのかについて、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」の第30条の2では、次の3つの要素をすべて満たすものがパワハラに該当するとされています。

  1.  優越的な関係を背景とした言動があったこと。
  2.  業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動があったこと。
  3.  労働者の就業環境が害されたこと。

企業に求められるパワハラ防止のための必要な措置とは

企業に求められるパワハラ防止のための雇用管理上必要な措置とは、「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)」において、次の措置とされています。

  1. 事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
  2. 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
  3. 職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
  4. 1.から3.までの措置と併せて講ずべき措置(例えば、相談者や行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講ずるなど)

なお、上記の措置を講じることは、大企業については、2020年(令和2年)6月1日から、中小企業については2022年(令和4年)4月1日から義務付けられていますので注意が必要です。

パワハラ相談の事例とその対応法

パワハラには様々な事例があり、相談を受けた会社側としてもどのように対応すべきか悩むことも多いのではないかと思います。

以下では、具体的なパワハラ相談の事例と相談を受けた会社の対応法を紹介していきます。

相談者からパワハラの事実なしとする調査結果に「納得できない。」と言われた場合

よくあるパターンですが、相談者に社内調査を行った結果、「パワハラの事実は確認できなかった」と伝えると、「納得がいかない。もう一度、調査してください。」などと言ってくる相談者もいるでしょう。

しかしながら、会社としてあくまで適切に調査を行ったのであれば、相談者から再調査の要望があったからといってそれに応じていたらきりがありません。このため、会社側としては「新たな証拠や事実が出てこない限りは再調査はしない。」と伝えてよいでしょう。

なお、その後、納得がいかない相談者が裁判を起こす可能性もありますが、裁判所でパワハラの事実ありとの判決が出たとしても、会社の調査結果が直ちに職場環境配慮義務に違反し、違法であるということはできないとした裁判例もあります。それは裁判の時には代理人(弁護士)が新たな証拠や事実を掴み、社内で調査を行った時とは異なる結論が出る場合もあるからです。

いずれにしても、会社としてはパワハラの相談があった時点で、あくまで適切に調査を行うという事が重要になります。

相談者から「まずは加害者に謝って欲しい」と言われた場合

この相談者の要望に対応するかどうかは状況によります。どういうことかと言うと、社内調査を行った結果、会社としてパワハラの事実があったと判断した場合には、当然、加害者から相談者への謝罪も必要になるでしょうが、問題はパワハラの事実が確認できなかった場合です。

例えば、会社として相談者が言うパワハラの事実は確認できなかったと結論付けた場合でも、ある程度、パワハラと取られかねない発言などがあったもののパワハラとまでは言えないというケースや、まったくパワハラの事実は確認できなかったというケースもあるでしょう。前者のケースの場合は、加害者とされた方に謝罪をさせた方がよいのでは?と思うかもしれませんが、加害者とされた方がパワハラをしたつもりはまったくないという認識であれば、謝罪する必要はないと思うでしょう。したがって、謝罪させるかどうかはまず、加害者とされた方に相談者の意向を伝えて、恐らく相談者の性格もよく知っているであろう加害者の判断に任せた方がよいと言えます。

相談者から「自分に代わって配偶者が対応する」と言われた場合

パワハラについての話し合いは、原則としては相談者、加害者とされる方の当事者、会社で進めるべきです。それは第三者が入ってくるとその第三者が個人的な意見を述べるなど話がややこしくなることが予想されるからです。

しかしながら、相談者が精神的に不安定になっているなどの事情があれば、相談者を無理に引っ張り出すことでさらに精神的に追い込む可能性もあります。このような場合には配偶者とやり取りをすることも検討しなければならないでしょう。

ただし、配偶者とやり取りをすることになった場合でも、その配偶者はあくまで相談者に代わる事務的な窓口であるため、配偶者の個人的な要望に応える必要はありません。

配偶者は、あくまで相談者発信の情報を伝えてもらう、会社からの確認事項を相談者に伝えてもらう存在であるという認識で構いません。

社内での調査結果についても相談者宛ての文書を作成して配偶者から相談者に渡してもらうようにすべきでしょう。

相談者から「うつ病になり、しばらく出勤できません。労災の休業補償を申請します。」と言われた場合

このケースの対応は、現在、社内で調査中なのか調査後なのかによっても異なります。

仮に、相談者が会社から社内調査の結果、パワハラの事実は確認できなかったという報告を受けたあと、うつ病を発症して出勤できなくなり、診断書を会社に提出して労災の休業補償の申請を求めてきたとします。

会社としては、適正に社内調査を実施した結果、パワハラの事実はなかったとした以上は、パワハラでうつ病になったと認めるわけにはいきませんので、この申請は却下しても問題はないでしょう。(ちなみに、労災の申請書類は労働者本人から直接、労働基準監督署に提出することも可能ですのでそのことは理解しておく必要があります。)

ただし、何が原因であれ、うつ病を発症したという事実がある以上、会社としては社内規程に独自に病気などによる休業補償を設けている場合にはそれを活用させるなど何かしらの対応をする姿勢は示すべきでしょう。

社内調査前に相談者と加害者とされる方の2人で営業に行く予定がある場合

パワハラの性質上、一般的にパワハラは上司が部下に対して行う行為であることがほとんどであり、つまりは相談者と加害者とされている方は業務上、連携を図らねばならないことが多いでしょう。

まだ社内調査に入る前ということなので、実際に相談者の言うパワハラの事実があったのかどうかは不明だと思いますが、仮にパワハラの事実があったとすれば、2人で営業に行かせることでさらに相談者を精神的に追い込むことになります。このため、まずは取り急ぎ、該当部署の者にヒアリングを行うなど簡易的、かつ、迅速にパワハラの事実確認を行い、パワハラの事実があった可能性が高いと判断できる場合には、会社としては2人で営業に行かせない方がよいでしょう。

もし、会社として2人で営業に行かせないようにするとなれば、当然、加害者とされている方には相談者(部下)からパワハラを受けたとの報告があったこと、また、このあと、社内調査を行うことも伝えておく必要があります。そして、当面は、相談者と加害者とされている方が2人で営業に行くことをやめさせる、また、営業以外にも業務上あまりかかわらないようにする配慮も必要になります。

問題社員に指導書を渡そうとしたところ、「それ自体がパワハラなので受け取らない。」と言われた場合

この事例は、上記で紹介したものとは少し毛色が異なりますが、会社からの指導がパワハラだと言ってくる者もいるでしょう。

一般的に「指導書」とは、業務命令に従わない、仕事をしない、無断欠勤を繰り返すなどの問題のある社員に渡す書類です。

会社として、問題のある社員に改善を促すために必要な指導を行うことはパワハラではありませんし、該当社員がパワハラと主張するからと言って指導を控える必要はありません。

該当社員が指導書を受け取らないこともあるでしょうが、その事は記録に残しておき、その後も問題が改善されないのであれば指導は続けるべきです。

上記の理由は、会社としてルールを守れないような社員に指導を行うのは当然のことだからです。そして、後に該当社員を懲戒解雇とした場合、その者が不当な解雇であるとして裁判を起こすことがありますが、該当社員には日頃から問題があり、会社として何度も指導を行ったものの改善されなかったことを証明でき、正当な解雇であったと主張できます。

会社がパワハラ対応を行うにあたっての注意点

従業員からパワハラの相談があった場合、会社側としては特に次のことに注意するようにしましょう。

 相談者が安心して話をできるようにすること

従業員からパワハラの相談があった場合、まず、会社にパワハラの相談をしたことでその相談者に不利益になるような扱いはしない、また、加害者とされている方からの報復がないように会社として注意を払う旨の説明をしたうえで、相談者が安心してその事実を話せるようにすべきです。

そのうえで、相談者には、パワハラの具体的な内容や会社に対してどのような解決方法を望むのか、また、加害者とされている方に話を聴いても問題ないかなどを確認します。

 加害者とされている方の話も十分に聴くこと

加害者とされている方に対する事情聴取は、相談者に了承を得たうえで行うことになりますが、当然ながら、初めから加害者であると決めつけて対応してはいけません。

相談者から会社へパワハラを受けている旨の報告があった時点では、あくまで相談者がそのように言っているだけであって、実際に加害者とされている方が本当にパワハラを行っているのかどうかは不明です。昨今、上司が部下へちょっと厳しめに注意しただけでパワハラを受けたとして会社に相談してくる方も少なくありません。相談者、加害者とされている方、ともに公平に話を聴くようにしてください。

パワハラの事実が確認できた場合、加害者の処分は慎重に検討すること

社内調査の結果、相談者の言うパワハラの事実があったとなれば、会社としては加害者に何かしらの処分を検討することになります。

先に説明したとおり、加害者には就業規則の規定に基づき減給や出勤停止、懲戒解雇などを検討することになるでしょうが、どの処分を行うのかについてはパワハラの内容を勘案して決定する必要があります。

そのパワハラ行為が暴力を伴うものであったり、日頃から精神的に追い詰めるようなかなり悪質なものであったりする場合には懲戒解雇にすることも不可能ではありませんが、多くの場合はそこまでのものではないでしょう。加害者にどのような処分を行うのかについてはその行為の悪質性を考慮して慎重に検討するようにしてください。

まとめ

これまで説明したように、パワハラについては様々なケースがあります。従業員からパワハラの相談があった場合、会社としての対応を誤れば、被害者側あるいは加害者側と裁判に発展するケースも少なくありません。

会社としてはそのケースに応じた対応が求められますが、もし、対応に迷うようなことがあれば、当事務所にご相談ください。

企業のパワハラ防止措置やパワハラ相談対応に関するお問い合わせは当事務所へ

最終更新日:2024年11月18日

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