【社労士が解説】最低賃金の引上げと、106万円・130万円の壁対策
目次
「年収の壁」という言葉をご存知でしょうか。
配偶者の扶養内でパートなどで働く人が、一定の年収額を超えると扶養を外れ、その結果収入が減る、という不思議な現象が起きてしまいます。その理由は扶養を外れたことで社会保険料の負担が生じ、手取りの収入が減るからです。これでは能力があり働きたいと思う人に制限を設けてしまうことになり、人手不足の要因とも指摘されています。
そしてこの年収の壁は、年々上がる最低賃金とも密接な関係にあります。それはなぜか。経営者や労務担当の方向けに、社労士が解説します。
年収の壁 企業と従業員の負担は大きい
まず年収の壁について。年収の壁には106万円、130万円のふたつがあり、主に勤務する企業の規模で対象者が変わります。
【106万円の壁】
- 配偶者の扶養に入り、従業員101人以上の企業などで働く人
- 106万円を超えると扶養を外れてしまい、自ら厚生年金や健康保険の保険料を支払う必要が出てくる
【130万円の壁】
- 配偶者の扶養に入り、従業員100人以下の企業など厚生年金などが適用されていない職場で働く人
- 130万円を超えると扶養を外れてしまい、自ら国民年金や国民健康保険の保険料を支払う必要が出てくる
社会保険適用拡大スケジュール
上記は2024年5月現在の内容ですが、2025年以降、全業種の20時間以上の従業員に、社会保険の加入義務が検討されています。
現在社会保険に加入せずに扶養の範囲で働いている従業員に、
「うちは加入義務の適用企業になるので、週20時間以上かつ8万8000円以上であれば社会保険に入っていただきます。時間を伸ばしますか?それとも20時間未満で働かれますか?」
という決断を迫る必要が出てくるのです。
従業員としては、収入を上げたいという気持ちと、扶養から外れたくないという気持ちの板挟みになり、モチベーションの低下も心配されます。
顧問先企業からは実際に、
「扶養から外れるのなら、違う職場で働く」
と、退職を決断をする従業員が出てきたというケースもお聞きしています。
企業側でも「就業調整」による人手不足が加速しています。扶養の範囲内で働く人から労働時間を減らしてほしいと依頼されると、減らした分は採用でカバーする必要が出てきます。採用の難易度もあがっている中、苦しい状態が続いています。
懸念点は最低賃金の引き上げ
近年、年収の壁に新たな懸念事項が加わりました。最低賃金の引き上げです。2023年8月31日の「新しい資本主義実現会議」で「30年代半ばには1,500円」とされた最低賃金は、予想よりずっと早く到来することが想定されます。
最低賃金が上がると、どうなるでしょう。今までと同じ時間働いていると、今までより早く年収の壁に当たってしまうという現象が起きてしまいます。
また、最低賃金の大幅引上げにより、玉突き的に若年層の賃金水準が上昇します。これにより企業は人手不足と人件費増加というダブルパンチの課題に直面します。
人件費は、どれくらい増加しそうでしょうか。
まずは自社のパートさん、従業員さんの上限を確認していただきたいのですが、お問い合わせいただけましたら計算式などのご案内が可能です。