障害者雇用制度の見直しについて ~障害者雇用率も引き上げに~

2024年6月7日

障害者雇用

政府は障害者の雇用についてさらなる質の向上を図るため、令和4年12月に「障害者の雇用の促進等に関する法律(以下、障害者雇用促進法)」を改正し、段階的に制度の見直しを進めていますが、このことは実際に障害者を雇用することになる企業側としては十分に理解しておかなければなりません。
今回は、この改正障害者雇用促進法により実際にどのような内容が施行されているのかなどについて解説します。

令和4年12月の障害者雇用促進法の改正について

政府は令和4年12月10日に障害者雇用促進法の一部改正を含む「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律等の一部を改正する法律」という法律を成立させています。
この法律の成立により、次表のとおり障害者雇用促進法のほか、多くの障害者に関係する法律が改正されています。

障害者に関係する法律とその改正目的

改正目的 該当法(略称で記載)
①障害者等の地域生活の支援体制の充実 障害者総合支援法、精神保健福祉法
②障害者の多様な就労ニーズに対する支援及び障害者雇用の質の向上の推進 障害者雇用促進法、障害者総合支援法、
③精神障害者の希望やニーズに応じた支援体制の整備 精神保健福祉法
④難病患者及び小児慢性特定疾病児童等に対する適切な医療の充実及び療養生活支援の強化 難病法、児童福祉法
⑤障害福祉サービス等、指定難病及び小児慢性特定疾病についてのデータベース(DB)に関する規定の整備 障害者総合支援法、児童福祉法、難病法
⑥その他(都道府県知事が行う障害福祉サービス事業者指定の手続きの見直しや、地方分権提案への対応として居住地特例対象施設に介護保険施設を追加するなど) 障害者総合支援法、児童福祉法

障害者雇用促進法に限って言えば、上記のとおり「障害者の多様な就労ニーズに対する支援及び障害者雇用の質の向上の推進」を目的として改正されています。


障害者雇用促進法の改正事項について

障害者雇用促進法の改正事項は、昨年の令和5年4月1日から施行されているものと、今年、令和6年4月1日から施行されているものの2つに分けられますが、それぞれの主な施行内容は次のとおりです。

令和5年4月1日施行分

昨年、令和5年4月1日から施行されている主な内容は次のとおりです。

事業主の責務の明確化

令和5年3月31日まで 令和5年4月1日以降
障害者雇用促進法第5条(事業主の責務) すべて事業主は、障害者の雇用に関し、社会連帯の理念に基づき、障害者である労働者が有為な職業人として自立しようとする努力に対して協力する責務を有するものであって、その有する能力を正当に評価し、適当な雇用の場を与えるとともに適正な雇用管理を行うことによりその雇用の安定を図るように努めなければならない。 障害者雇用促進法第5条(事業主の責務) 全て事業主は、障害者の雇用に関し、社会連帯の理念に基づき、障害者である労働者が有為な職業人として自立しようとする努力に対して協力する責務を有するものであって、その有する能力を正当に評価し、適当な雇用の場を与えるとともに適正な雇用管理並びに職業能力の開発及び向上に関する措置を行うことによりその雇用の安定を図るように努めなければならない。

何故このような改正を行ったのかについては、上記で説明したとおり、その目的として「障害者雇用の質の向上」に重きを置いているからです。今後は各企業等が単に障害者雇用率をクリアすればよいというわけではなく、雇用した障害者がより活躍するための環境づくりを進めることが重要と考えているからです。

この「職業能力の開発及び向上に関する措置」はいろいろと考えられますが、例えば、雇用した障害者と定期的に面談を行って、現在の担当業務の状況を確認するだけでなく、今後どのように働いていきたいのかなど、その方の希望を十分に聴取する。また、その方の特性を十分活かせるように配置を見直す、その特性をさらに向上させるために職業訓練などの機会を積極的に提供していくことなどが挙げられるでしょう。
(厚生労働省のホームページでは、この取り組みのポイントや事例などをまとめたリーフレットが公開されています。)


事業協同組合等算定特例の見直し

事業協同組合算定特例とは、中小企業が事業協同組合等を活用して共同事業を行い、一定の要件を満たすものとして厚生労働大臣の認定を受けたものについては、その事業協同組合等とその組合員である中小企業における実雇用率を通算することができるという制度です。

この特例を受けることができれば、個々の企業では障害者を雇用するための仕事量を確保することが困難な場合でも、事業協同組合等を活用して複数の中小企業が共同して障害者の雇用機会を確保することが可能になります。

この特例の対象となる「事業協同組合等」とは、「事業協同組合」、「水産加工業協同組合」、「商工組合」、「商店街振興組合」、「有限責任事業組合(LLP)(※)」のことを指しますが、これまで「有限責任事業組合(LLP)(※)」については、国家戦略特区(経済活性化のために地域限定で規制や制度を見直してその効果を検証するために政府が指定した区域)内においてのみ「事業協同組合等算定特例」の対象とされていましたが、令和5年4月1日以降は国家戦略特区に限定せず全国で対象とされるようになっています。
※「LLP」とは「Limited Liability Partnership」の略称です。


在宅就業支援団体の登録要件の緩和

在宅就業支援団体とは、通勤等が困難な障害者の在宅就業を支援するため、在宅就業障害者と発注元である事業主の間に入って、在宅就業障害者に対しては仕事の発注や各種相談支援等を行い、事業主に対しては納期や品質に対する保証を担う役割を果たす団体のことを言います。

この在宅就業支援団体になるためには、厚生労働大臣に申請して登録を受ける必要がありますが、政府はさらなる在宅就業支援団体の参入を促すため、令和5年4月1日以降は次表のとおり要件の緩和や手続きの簡素化が行われています。

令和5年3月31日まで 令和5年4月1日以降
【登録要件】 【登録要件】
常時10人以上の在宅就業障害者に対して、実施業務のすべてを継続的に実施していること

常時5人以上の在宅就業障害者に対して、実施業務のすべてを継続的に実施していること
※「常時10人以上」の要件が「常時5人以上」に緩和

従事経験者が実施業務を実施し、その人数が2人以上であること 従事経験者が実施業務を実施していること
※「2名以上」の要件が削除
専任の管理者(従事経験者である者に限る。)が置かれていること 管理者(従事経験者である者に限る。)が置かれていること
※「専任」の要件が削除
【登録申請時の添付書類】 【登録申請時の添付書類】
役員の略歴と在宅就業障害者の業務などについての書面の添付が必要 左記の書類はどちらも添付不要

精神障害者である短時間労働者の障害者雇用率算定に係る特例の延長

精神障害者の雇用率の算定について、令和4年度末まで一定の要件を満たした場合には、短時間労働者1人を1人としてカウント(本来は1人を0.5人としてカウント)とする特例措置が設けられていましたが、令和5年4月1日以降も当分の間は1人を1人としてカウントすることになっています。

具体的には、雇入れや精神障害者保健福祉手帳の交付からの期間にかかわらず、1人を1人としてカウントすることとし、令和4年度まで0.5人としてカウントしていた者も含めて、令和5年度以降は当分の間、1人を1人としてカウントすることができます。


令和6年4月1日施行分

今年、令和6年4月1日から施行されている主な内容は次のとおりです。

10時間以上20時間未満で働く重度の身体・知的障害者、精神障害者の算定特例

これまで、週の所定労働時間が20時間未満の障害者を雇用しても障害者を雇用したという実績にはなりませんでした。

そこで政府は、障害の特性により長時間勤務が困難な障害者の雇用機会の拡大を図るため、週の所定労働時間が10時間以上20時間未満で働く重度の身体障害者、重度の知的障害者、精神障害者を雇用した場合には、次表のとおり特例的な取り扱いとして障害者雇用率(総従業員数に対する雇用すべき障害者数の割合)上、1人を0.5人としてカウントできることとしました。

週の所定労働時間 30時間以上 20時間以上
30時間未満
10時間以上
20時間未満
障害者の区分
身体障害者 1 0.5
  重度 2 1 0.5
知的障害者 1 0.5
  重度 2 1 0.5
精神障害者 1  0.5(※) 0.5

※「精神障害者である短時間労働者の障害者雇用率算定に係る特例の延長」のところで説明したとおりですが、この「0.5」は当分の間は「1」とされます。

なお、この取り扱いの変更により、週10時間以上20時間未満で働く障害者を雇用する事業主に対して支給していた「特例給付金」は令和6年4月1日をもって廃止されています。


障害者雇用調整金の支給額の見直し

障害者雇用調整金とは、常用労働者数が100人を超える企業で、障害者雇用率を超えて障害者を雇用している場合に厚生労働省所管の独立行政法人である「高齢・障害・求職者雇用支援機構」から支給される(要申請)もので、現時点(令和6年5月)では障害者雇用率を超えて雇用している障害者数に応じて1人につき月額2万9千円が支給されます。

ただし、今回の改正で令和6年4月1日以降の雇用期間については、支給対象人数が年120人(単純換算で1か月10人)を超える場合、その超過人数分の支給額は1人につき月額2万3千円となりました。つまり、一定数を超えて障害者を雇用すると、その超えた人数分の支給額は減額になるということですが、政府がこの減額(調整)に踏み切った理由は、その財源を企業等が実施する障害者の職場定着等の取り組みに対する支援に投入するためです。


報奨金の支給額の見直し

報奨金とは、常用労働者数が100人以下の企業で、各月に雇用した障害者数の年度間合計数が一定数(各月の常用労働者数の4%の年度間合計数または72人のいずれか多い数)を超えて障害者を雇用している場合に厚生労働省所管の独立行政法人である「高齢・障害・求職者雇用支援機構」から支給される(要申請)もので、現時点(令和6年5月)ではこの一定数を超えて雇用している障害者数に応じて1人につき月額2万1千円が支給されます。

ただし、今回の改正で令和6年4月1日以降の雇用期間については、支給対象人数が年420人(単純換算で1か月35人)を超える場合、その超過人数分の支給額は1人につき月額1万6千円となりました。政府がこの減額(調整)に踏み切った理由は上記の障害者雇用調整金と同様です。


障害者雇用納付金関係助成金の新設・拡充等

障害者雇用納付金関係助成金とは、企業が障害者の雇入れや雇用の継続を行うために特別な措置を行った場合に支給される(要申請)もので、事業主の一時的な経済的負担を軽減し、障害者の雇用促進や雇用継続を図ることを目的とした助成金です。

この障害者雇用納付金関係助成金にはいくつかの種類がありますが、今年、令和6年4月1日から新たな助成金の創設や既存の助成金の拡充が行われています。

これらの助成金の申請窓口は、基本的に「高齢・障害・求職者雇用支援機構」になりますので、詳しくはこの機構のホームページまたは各都道府県支部でご確認ください。


障害者雇用率の引き上げ・除外率の引き下げについて

上記の制度面の見直しに加えて、今後、障害者雇用率については引き上げ、除外率については引き下げが予定されています。

障害者雇用率の引き上げ

障害者雇用率は、障害者雇用促進法において少なくとも5年毎に見直しを行うことが規定されていますが、この障害者雇用率は今年、令和6年4月1日から民間企業については2.3%から2.5%に引上げられており、さらに令和8年7月1日からは2.7に引き上げられることが予定されています。

国や地方公共団体等も含めた、これまで、現在、また、今後の障害者雇用率の引き上げ予定は次表のとおりです。

適用期間 令和3年3月1日~
令和6年3月31日
令和6年4月1日~
令和8年6月30日
令和8年7月1日
以降(予定)
団体の区分
民間企業 2.3% 2.5 2.7
国、地方公共団体等 2.6% 2.8% 3.0%
都道府県等の教育委員会 2.5% 2.7% 2.9%

除外率の引き下げ

除外率とは、法定雇用障害者数を計算する際に常用労働者数から差し引くことができる常用労働者数に対する割合のことで、障害者が就業することが困難と判断される業種にのみ適用されます。

この除外率は、ノーマライゼーション(障害者や高齢者などを排除するのではなく、健常者と同等に生活できるような社会こそがノーマルな社会であるという考え方)の観点から平成14年4月24日に成立した改正障害者雇用促進法において平成16年4月1日に廃止になりましたが、経過措置として当分の間は除外率が適用になる業種ごとに段階的に引き下げを行うこととされています。

そして、令和7年4月1日からはすべての適用業種について次表のとおり10%引き下げられることが決定しています。

除外率設定業種 令和6年5月1日
時点の除外率
令和7年4月1日
からの除外率
非鉄金属製造業(非鉄金属第一次製錬・精製業を除く)、倉庫業、船舶製造・修理業、船用機関製造業、航空運輸業、国内電気通信業(電気通信回線設備を設置して行うものに限る) 5% 0%(=廃止)
採石業、砂・砂利・玉石採取業、水運業、窯行原料用鉱物鉱業(耐火物・陶磁器・ガラス・セメント原料用に限る)、その他の鉱業 10% 0%(=廃止)
非鉄金属第一次製錬・精製業、貨物運送取扱業(集配利用運送業を除く) 15% 5%
建設業、鉄鋼業、道路貨物運送業、郵便業(信書便事業を含む) 20% 10%
港湾運送業、警備業 25% 15%
鉄道業、医療業、介護老人保健施設、介護医療院、高等教育機関 30% 20%
林業(狩猟業を除く) 35% 25%
金属鉱業、児童福祉事業 40% 30%
特別支援学校(専ら視覚障害者に対する教育を行う学校を除く) 45% 35%
石炭・亜炭鉱業 50% 40%
道路旅客運送業、小学校 55% 45%
幼稚園、幼保連携型認定こども園 60% 50%
船員等による船舶運航等の事業 80% 70%

民間企業が雇用すべき障害者数の計算方法

最後に、上記で説明した障害者雇用率や除外率などを踏まえて、民間企業(事業所)が雇用しなければならない障害者数の計算方法について説明します。

今年、令和6年5月時点において、民間企業(事業所)が雇用しなければならない障害者数は
次の計算式で求めます。

法定雇用障害者数=(常用労働者数 + 短時間労働者数×0.5)× 障害者雇用率(2.5%)

【補足事項】

①上記の計算の結果、法定雇用障害者数に小数点以下の端数が出た場合は切り捨てます。

②除外率が適用される業種については、常用労働者数から「常用労働者数×除外率」の人数を差し引いて計算します。

③上記の計算は原則として企業(事業所)単位で行いますが、子会社や関係会社などがあり企業グループを構成している場合には、一定の要件を満たすことで企業グループ全体で計算することができる特例があります。(詳しくは厚生労働省のホームページなどでご確認ください。)

④常用労働者や短時間労働者がどのような労働者を指すのかについては細かく定義されているのですが、週の所定労働時間数と労働者数1人のカウント方法だけで言えば、次表のような整理になっています。

週の所定労働時間(※)労働者の区分労働者1人のカウント
30時間以上常用労働者1人
20時間以上30時間未満短時間労働者0.5人

※週の所定労働時間とは、雇用契約上の労働時間のことであり、残業などを含めた実労働時間ではありません。

⑤雇用する障害者(重度を除く)のカウント方法も令和6年4月1施行分のところで説明したとおり原則として同様です。


それでは、現時点(令和6年5月)で業種別に雇用すべき障害者数の計算方法について、いくつか例を挙げて説明していきたいと思います。


製造業における計算方法

計算対象とする製造業の企業データは次のとおりとします。

業種:文具の製造(メーカー)
 常用労働者数:500人
 短時間労働者数:100人

製造業の中には上記で説明した除外率が適用される業種(船舶製造など)もありますが、文具を製造する企業については除外率は適用されません。このため、この企業で雇用すべき障害者数は次の計算式で求められます。

法定雇用障害者数=(500人 + 100人×0.5)× 障害者雇用率(2.5%)=13.75人(※)

※端数は切り捨てになりますので、この企業で雇用すべき障害者数は13人になります。


建設業における計算方法

計算対象とする建設業の企業データは次のとおりとします。

業種:建設業
常用労働者数:300人
短時間労働者数:50人

建設業は20%の除外率が適用される業種であるため、300人×20%=60人を常用労働者数から差し引くことができます。これを踏まえると、この企業で雇用すべき障害者数は次の計算式で求められます。

法定雇用障害者数=(300人-60人 + 50人×0.5)× 障害者雇用率(2.5%)=6.625人(※)

※端数は切り捨てになりますので、この企業で雇用すべき障害者数は6人になります。


介護関係事業所における計算方法

計算対象とする介護関係事業所のデータは次のとおりとします。

業種:介護事業
常用労働者数:50人
短時間労働者数:20人

介護関係の事業所には提供するサービスにより様々な事業所がありますが、介護関係の事業所は「児童福祉事業」に該当し、40%の除外率が適用されるため、50人×40%=20人を常用労働者数から差し引くことができます。これを踏まえると、この事業所で雇用すべき障害者数は次の計算式で求められます。

法定雇用障害者数=(50人-20人 + 20人×0.5)× 障害者雇用率(2.5%)=1人

なお、保育園も「児童福祉事業」に該当します。


まとめ

障害者雇用制度についてまったく認識していない企業はないと思いますが、概ね制度的なことを理解していても「自社は少人数のため障害者を雇用する必要はない」と思い込んでいる企業もあるのではないでしょうか。

少人数の企業でも今回の障害者雇用率の引き上げによって初めて障害者の雇用義務が発生する企業も少なからずあると思います。自社の従業員数で障害者を雇用しなければならないのか否かについては必ず確認し、雇用する必要があるのであれば、早急に受け入れ体制を整えるようにしてください。

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