2026年以降の労働基準法改正に備える

「14連勤の禁止」と「勤務間インターバル」の実務対策
1. はじめに
「誰かが休んだら別のスタッフにお願いするしかない」
「ギリギリの人数でシフトを回している」
人手不足が深刻化する中、シフト作成に頭を悩ませている人事ご担当者様なら、心当たりのある方も多いのではないでしょうか。
そこに追い打ちをかけるように聞こえてくるのが、
「労働基準法が大きく変わり、14日以上の連続勤務が禁止されるらしい」
「勤務間インターバルの確保が法的義務になる」
といったニュースです。
自社のシフトは、今後も適法に組めるのでしょうか。
本コラムの内容は2026年8月時点の報道・議論状況に基づくものです。法案の提出時期や内容は今後の国会審議等により変更される可能性がありますので、最新情報は厚生労働省の公表資料等でご確認ください。
①.消えた法案?「見送り」の実態
結論から言うと、これらの大きな法案改正は、2025年12月23日に、厚生労働省が2026年の通常国会への提出を見送る方針を固めたと報じられました。政府による労働時間規制の見直し方針も背景にあるとされ、議論は一旦立ち止まった形です。
しかし、厚生労働省の「労働基準関係法制研究会」が2025年1月にまとめた報告書には、過労死等の防止に向けた法改正の方向性が明示されており、将来的な制度化に向けた動きが停止したわけではありません。
②「準備期間」というチャンスの捉え方
この法案見送りの期間を「しばらくは今のままで大丈夫」と安堵するのではなく、企業にとって制度見直しとシステムの改修を行うための「準備期間(猶予期間)」と前向きに捉えることが重要です。
本コラムでは、議論の中身を整理しながら、今のうちに着手できる実務対策を解説します。
2. 注目ポイント①:「14日以上の連続勤務(14連勤)の禁止」
過労死やメンタルヘルス不調を防ぐ観点から強く議論されているのが、連続勤務日数に対する上限規制の導入です。
現行の労働基準法には「〇日以上連続で働かせてはいけない」という直接的な日数上限の規定はありません。
労働基準法第35条は「毎週少くとも1回の休日を与えなければならない(原則)」としつつ、例外として「4週間を通じ4日以上の休日を与えること(変形休日制)」を認めています。
しかし、この変形休日制を採用し、休日の配置を特定の期間に寄せた場合、理論上は「最大48日間の連続勤務」が適法となってしまいます。
また、原則である「1週1休」の場合であっても、第1週の日曜日を休日にし、第2週の土曜日を休日に設定すれば、間に挟まれた12日間は連続勤務することが可能です。
さらに、36協定(時間外・休日労働に関する協定)を締結し、休日労働を命じた場合は、制度上の連続勤務の上限は事実上なくなってしまいます。
これに対し、研究会の報告書では、労災保険における精神障害の認定基準などを踏まえ、「13日を超える連続勤務を禁止する(=14日以上の連続勤務を禁止する)」規定の創設が提言されました。これは、36協定で休日労働を命じる場合であっても適用される強い規制となる見通しです。
シフト制を採用している店舗や介護施設などでは、月またぎのシフトを作成する際、意図せず14日連続勤務となってしまうケースがあります。人手不足で連勤を頼らざるを得ない事情はよく分かりますが、スタッフが心身の限界を迎えて離職してしまえば、現場はより苦しくなります。
3. 注目ポイント②:「勤務間インターバル制度」の法的義務化へ
次に注目すべきは「勤務間インターバル制度」です。これは、1日の終業時刻から翌日の始業時刻までの間に、一定時間(例えば11時間)の休息時間を確保する制度です。
現在、この制度は「労働時間等の設定の改善に関する特別措置法」において、企業の「努力義務」にとどまっています。しかし、睡眠時間の不足が労働者の健康に直結することから、欧州(EU)の基準を参考にした「11時間程度」のインターバル確保を「法的義務」に格上げする方向で議論が進められています。
例えば、飲食店のシフトで「夜23時に退勤し、翌朝7時から早番で出勤する」といったケースでは、休息時間は8時間しかありません。通勤時間や食事、睡眠の時間を考えると、心身を休めるには不十分です。
人手不足の中で「遅番の翌日に早番」をお願いしてしまう現場の事情はあるものの、法的義務化が見据えられている今、シフトパターンの根本的な見直しが必要になってきます。
4. 注目ポイント③:「週44時間特例」の廃止と「法定休日」の特定
中小企業に特に大きな影響を与えそうなのが、「法定労働時間週44時間の特例措置」の廃止議論です。労働基準法第32条では、法定労働時間は原則として「1日8時間、週40時間」と定められていますが、同法第40条により、常時使用する労働者が10人未満の「商業(小売店など)」「接客娯楽業(飲食店、旅館など)」「保健衛生業(病院、クリニックなど)」については、特例として「週44時間」まで延長することが認められています。
報告書では、この週44時間特例を廃止し、すべての企業において原則どおり「週40時間」へ統一する方向性が示されました。
もし特例が廃止されれば、これまで週44時間でシフトを組んでいた企業は、週40時間を超える4時間分について、労働基準法第37条に基づく25%増しの割増賃金(残業代)を支払うか、シフトを短縮する必要があります。これは人件費に直結する大きな問題です。
また、休日のルールについても、「あらかじめ法定休日を特定すべきことを法律上に規定する」と明記されました。企業は就業規則の休日規定を改定し、「法定休日は日曜日とする」といった形で明確に定めることが求められるようになります。
5. 悩める経営者を救う、準備期間に行うべき実務対策
これらの規制が施行された後で慌てて対応しようとしても、シフトの再構築やシステムの入れ替えはすぐには完了しません。法案提出が見送られ、猶予期間が与えられた今こそ、以下の対策を進めるチャンスです。
- クラウド型勤怠システムによる客観的把握とアラートの活用:
「意図しない14連勤」や「インターバル不足」を手作業や紙のシフト表、エクセルで管理し続けるのは、管理者にとって限界があります。まずは、クラウド型の勤怠管理システムを導入しましょう。
最新のシステムであれば、シフト作成時に「13日連続勤務」になる場合や「休息時間が11時間未満」になる場合にアラートを出す機能を備えています。システムに頼ることで、管理者の確認漏れ(ヒューマンエラー)を防ぐことが最も確実な防衛策となります。 - 就業規則の見直しとシフトルールの再設計:
「週44時間特例」を利用している企業は、今のうちから週40時間以内に収めるシフトパターンの検討を開始しましょう。また、就業規則を確認し、「法定休日は〇曜日とする」といった文言が明確に記載されているか点検してください。
6. 専門家からの一言
「ただでさえ人手が足りないのに、14連勤禁止やインターバル11時間なんて言われたら、現場が回らなくなってしまう」。そう感じる経営者様は多いはずです。法律の規制が現場の実情とかけ離れて見えるのも無理はありません。
しかし、視点を少し変えてみてください。無理なシフトや十分な休息が取れない労働環境は、短期的には業務を回すことができても、長期的にはスタッフの疲弊、体調不良、そして退職を招きます。人材の確保が至上命題となっている現在、「労働基準法を遵守し、しっかり休めるクリーンな職場」であること自体が、強力な採用の武器となり、スタッフの定着率を高めるのです。
法案提出の延期が続く今の期間は、国が与えてくれた「組織基盤を強固にするための準備期間」です。まずは自社のシフト表を振り返り、14日以上の連勤や無理な遅番・早番のシフトが発生していないか、客観的に点検するところから始めてみませんか。
ITツール(クラウド勤怠システム)を上手く活用し、アナログな管理から脱却することこそが、結果的に経営者と大切なスタッフの双方を守る第一歩となります。
