従業員に横領の疑いがあるときの会社の対応

2023年10月31日

横領

Q.会社の経理担当者などが売上金を横領したという報道を耳にすることがありますが、会社としてはその従業員を解雇し、損害を賠償させるというパターンが多いように思います。弊社ではまだそのような事例はありませんが、参考までに横領について会社としてどのように対応すべきか教えてください。

A. 会社のお金の管理を任されている経理担当者が売上金を着服することや、販売店のお金の管理を任されている店長が売上金を本社に過少申告し、その差額を着服することなどは業務上横領に該当し、これを行った者は下記で挙げる3つの横領の中でも最も重い10年以下の懲役に処されることになっています。

従業員に横領の疑いがあることがわかった場合、会社としてまず行うべきはその従業員が本当に横領している(していた)という事実を証明できる証拠を集めることです。そして、その証拠が固まった後は、該当従業員に聞き取り調査を行って責任を追及していくことになります。

※ちなみに、あまり知られていないと思いますが、会社や店舗などのお金の管理を任されていない者、例えば、販売店の店長ではなく一販売員が売上金を盗んだ場合には、横領ではなく窃盗という整理になります。

従業員の横領に対して、会社としてまず行うべきこと

横領とは

「横領」とは、刑法上、自己が占有する他人の物を自分の物にすること(簡単に言えば、他人から預かったものを勝手に自分のものにするということ)を言い、単純横領(刑法第252条)と業務上横領(刑法第253条)、遺失物等横領(刑法第254条)の3つが規定されています。

証拠集めと3つの責任追及

従業員に横領の疑いがあることがわかった場合、会社としてまず行うべきはその従業員が本当に横領している(していた)という事実を証明できる証拠を集めることです。そして、その証拠が固まった後は、該当従業員に聞き取り調査を行って次の3つの責任を追及していくことになります。

①従業員としての責任

就業規則に基づいて懲戒処分(懲戒解雇など)を行う。

民事上の責任

損害賠償を請求する。

③刑事上の責任

業務上横領罪として刑事告訴する。

なお、横領額の規模やその悪質性にもよりますが、該当従業員が素直に横領を認めて上記①の懲戒解雇などの処分を受け入れ、かつ、②の損害賠償にも応じるのであれば、会社としては大々的に事件が知られることになる③の刑事上の責任までは追及しないことが多い傾向にあります。


さらに詳しく…

従業員の横領に対して、会社として注意すべきは

上記で説明したとおりですが、従業員に横領の疑いがあるとき、会社としてまず行うべきはその従業員が本当に横領している(していた)という事実を証明できる証拠を集めることです。

証拠固め

この証拠とは、横領の内容にもよりますが、例えば、会計帳簿や取引関係書類、領収書、取引先とのメールなどの物的証拠、また、その従業員と同部署の従業員からヒアリングを行って得た供述証拠などが挙げられます。

会社として注意すべきは、この証拠が固まらないまま、すぐに横領の疑いがある従業員を呼び出して事実確認などを行わないことです。

所長解説

※従業員に横領の疑いがあることがわかった時点で、その後の対応については弁護士に相談しながら進めた方が良いでしょう。

横領の事実を証明できる証拠が固まらないまま動くと…

否認、逃亡、証拠隠滅の危険性について

状況的にその従業員が横領したことはまず間違いないと判断できるとしても、その証拠がない、あるいは、不十分なままその従業員に事実確認をしても、まず横領したことを認めないでしょうし、その後、逃亡や証拠隠滅を図る可能性があるからです。

逆に不当解雇で訴えられる危険性について

そして、当然ながら、証拠が固まらないまま懲戒解雇にすることも損害賠償を請求することもできません。仮に証拠が不十分なまま懲戒解雇にすると、逆にその従業員から不当解雇であると訴えられて、裁判所は証拠が不十分であるとして解雇は無効とし、さらに解雇後の賃金の支払いを命じられるケースも少なくないからです。

その後の一連の手続きについて

上記で説明した証拠を固めること、また、その後の損害賠償請求、刑事告訴などの一連の手続きにおいて一つでも誤ると、その従業員との間で裁判になるリスクが高くなりますし、実際に裁判になれば会社のイメージ低下も避けられません。このため、従業員に横領の疑いがあることがわかった時点で、その後の対応については弁護士に相談しながら進めた方が良いでしょう。


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