在職老齢年金の支給停止基準引き上げのポイント

在職老齢年金の支給停止基準額の引上げ

2026年4月1日より、在職老齢年金の支給停止基準が月額51万円から65万円へ引き上げられました。65歳以降も活躍するシニア人材が増える中、この改正は企業の処遇設計や採用戦略にも大きな影響を与えます。本コラムでは、改正のポイントと企業として今すぐ着手すべき実務対応をわかりやすく解説します。


目次

1. 在職老齢年金とは?

在職老齢年金とは、老齢厚生年金を受給しながら会社に勤務している方(被保険者)を対象に、給与と年金の合計額が一定基準を超えた場合に年金額の一部または全部が支給停止となる制度です。

対象となるのは、厚生年金保険に加入しながら在職している60歳以上の方です。なお、国民年金(老齢基礎年金)は対象外となります。

支給停止のしくみ(基本公式)

総報酬月額相当額 = 標準報酬月額 +(直近1年間の標準賞与額 ÷ 12)

→ 総報酬月額相当額 + 年金月額(基本月額)が基準額を超えると、  超過分の1/2が年金から支給停止されます。


2. 2026年改正の変更点:比較表で確認

今回の改正で最も重要なのは、支給停止基準額の引き上げです。

項目改正前改正後(2026年4月〜)
支給停止基準額月額 51万円月額 65万円
対象者60歳〜64歳、65歳以上60歳〜64歳、65歳以上
計算方法総報酬月額+年金月額総報酬月額+年金月額
実務上の影響年金カットされやすい年金カットされにくい

【ポイント】改正前は給与+年金が月額51万円を超えると年金が減額されていましたが、改正後は65万円まで減額されません。つまり、年収ベースで換算すると年間168万円分の「許容枠」が拡大したことになります。


3. 企業経営・人事への影響

■ ① 高齢人材の採用・継続雇用がしやすくなる

これまで「年金が減るから働き控えたい」と感じるシニア人材も少なくありませんでした。今回の改正により、そのような心理的ハードルが下がり、65歳以降も意欲的に働く高齢者が増えることが期待されます。企業にとっては、技術・経験・人脈を持つ人材の活躍継続が図りやすくなります。

■ ② 給与設計の自由度が高まる

これまでは「年金が止まらないよう給与を抑える」という設計をしていた企業もありました。新基準の65万円を踏まえ、給与水準を正当に評価する処遇体系へと見直す好機です。

■ ③ 労使双方でのメリット共有が重要

改正内容を在職している高齢社員に正確に伝えていない場合、「損をしている」と誤解されるリスクがあります。社内への丁寧な周知が信頼関係の強化にもつながります。


4. 企業の実務対応チェックリスト

以下の項目を参考に、自社の対応状況を確認してください。

対応項目具体的な内容
社内周知65歳以上の在職者に対し、年金受給額が変わる可能性を個別に案内する
年金事務所への届出確認在職老齢年金の受給者は毎年「在職定時改定」で年金額が見直されるため、届出漏れがないか確認する
処遇・給与設計の見直し高齢社員の給与水準を見直す場合は、新基準65万円を踏まえたシミュレーションを実施する
就業規則・雇用継続制度の整合確認継続雇用時の給与規定と年金受給の組み合わせが最適かを再確認する

5. よくある質問(FAQ)

60歳〜64歳の社員にも今回の改正は適用されますか?

はい、適用されます。在職老齢年金制度は60歳以上を対象としており、今回の基準額引き上げ(51万円→65万円)は60歳以上全員に適用されます。

65万円の基準は税引き前ですか?

はい、税・社会保険料控除前の「総報酬月額相当額(賞与含む)+年金月額」が基準になります。手取り額ではない点にご注意ください。

改正に伴って届出や手続きは必要ですか?

在職老齢年金の計算は年金事務所が自動で行うため、企業として特別な届出は基本的に不要です。ただし、対象社員への情報提供や、給与見直しを行う場合は必要に応じて社労士にご相談ください。

年金を全額受け取れるケースはどんな場合ですか?

総報酬月額相当額+年金月額の合計が65万円以下の場合、年金は全額支給されます。高齢社員の給与が比較的低く、かつ年金額も少ない場合がこれに該当します。


6. まとめ:シニア活躍推進のチャンスとして捉える

今回の在職老齢年金の支給停止基準引き上げは、単なる制度変更にとどまらず、「シニア人材が安心して働ける環境整備」という国の方向性を反映したものです。

企業としては、この改正をポジティブに活かし、以下の3点を意識した取り組みを進めることが重要です。

  • 社内への改正内容の正確な周知・個別案内
  • 給与・処遇設計の見直しと最適化
  • 継続雇用制度の整合確認とルールの明文化

制度の詳細や個別のケース判断については、ぜひ社会保険労務士へご相談ください。適切なアドバイスのもとで、シニア人材が輝き続ける職場づくりを進めていきましょう。

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