令和6年4月から労働条件の明示ルールが変わります
Q. 来年(令和6年)の4月1日から、新たに従業員を採用する時や有期労働契約の従業員の契約を更新する時に明示しなければならない労働条件が追加されると聞きました。具体的にどのような事項が追加されるのか教えてください。
A. 今年(令和5年)の3月30日に労働基準法施行規則等を改正する省令が交付されており、来年(令和6年)の4月1日から施行されることになっています。そのタイミングで従業員に明示しなければならない労働条件がいくつか追加されることになっています。
この目的は、主に無期転換制度(有期労働契約が通算5年を超える場合に、該当労働者から申込みがあれば、期間の定めのない無期労働契約に転換する制度)や労働契約関係を会社と従業員の間できちんと共有できるようにすることにあります。
以下では、現時点で従業員に明示しなければならない労働条件と来年(令和6年)4月1日から追加で明示しなければならない労働条件について、より詳しく説明しています。
さらに詳しく…
現時点で明示しなければならない労働条件
現時点で、労働契約の締結・更新のタイミングで、従業員に明示しなければならない労働条件は、労働基準法施行規則第5条において、次のとおり、必ず明示しなければならない事項(絶対的明示事項)と、会社に該当制度がある場合に明示しなければならない事項(相対的明示事項)が定められています。
絶対的明示事項
絶対的明示事項とは、次の6事項で従業員に必ず明示しなければなりません。
- 労働契約の期間に関する事項
- 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項
- 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
- 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を2組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
- 賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
- 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
なお、⑤のうち昇給に関する事項を除き、原則として書面(労働条件通知書や就業規則)で明示しなければならないことになっていますが、従業員が希望した場合には、ファックスやメールなど書面で出力できるツールで明示することも可能とされています。
相対的明示事項
相対的明示事項とは、次の8事項で会社に該当制度がある場合(①については退職金制度がある場合に明示する。)に従業員に明示しなければなりません。
- 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
- 臨時に支払われる賃金(退職手当を除く。)、賞与及び賃金並びに最低賃金額に関する事項
- 労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
- 安全及び衛生に関する事項
- 職業訓練に関する事項
- 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
- 表彰及び制裁に関する事項
- 休職に関する事項
なお、明示方法については絶対的明示事項と異なり、口頭で明示してもよいことになっていますが、トラブルを避けるためにも労働条件通知書と合わせて就業規則を渡すなど書面で明示しておいた方が良いでしょう。
令和6年4月1日から追加で明示しなければならない労働条件
令和6年4月1日からは、上記で説明した明示事項に加えて次の4事項も明示しなければなりません。
- 就業場所・業務の変更の範囲(すべての従業員が対象)
- 更新上限の有無と内容(有期労働契約の従業員が対象)
- 無期転換の申込機会(有期労働契約の従業員が対象)
- 無期転換後の労働条件(有期労働契約の従業員が対象)
①就業場所・業務の変更の範囲
この事項は、正社員や有期労働契約の従業員(つまりすべての従業員が対象)を新たに採用する時、また、有期労働契約の従業員の契約を更新する時に明示しなければなりません。 具体的には、これまで明示していた採用直後の就業場所・業務の内容に加えて、これらの変更の範囲、つまり、採用後に配置転換などによって変わる可能性がある就業場所・業務の範囲も明示する必要があります。
②更新上限の有無と内容
この事項は、有期労働契約の従業員を新たに採用する時、また、その有期労働契約を更新する時に、明示しなければなりません。
具体的には、更新上限(有期労働契約の通算契約期間または更新回数の上限)の有無とその内容を明示する必要があります。
加えて、最初の契約締結の後に更新上限を新たに設ける場合や、最初の契約締結時に設けていた更新上限を短縮する場合には、該当従業員にはあらかじめ(更新上限の新設、短縮する前のタイミングで)説明しておかなければなりません。
③無期転換の申込機会
この事項は、無期転換制度に基づく無期転換申込権が発生する、有期労働契約の従業員の契約を更新する時に、明示しなければなりません。(無期転換の申込みが可能であることを明示するということ。)
なお、初めて無期転換申込権が発生した従業員が、その時に無期転換を希望せず、有期労働契約として更新した場合は、その後、契約を更新するたびに、無期転換の申込みが可能であることを明示しなければなりません。
④無期転換後の労働条件
この事項は、上記③と同時に、無期転換制度に基づく無期転換申込権が発生する、有期労働契約の従業員の契約を更新する時に明示しなければなりません。
なお、無期転換後の賃金などの労働条件を決定するに当たっては、通常の労働者(正社員などのいわゆる正規雇用の従業員)とのバランスを考慮した事項(例えば、業務内容や責任の程度、異動の有無やその範囲など)について、該当従業員に説明するよう努めなければならないとされています。(こちらは義務ではありません。)
専門家からのひとこと
来年(令和6年)4月まではそこそこ時間がありますが、新たな労働条件通知書の準備、また、会社によっては無期転換後の労働条件などについて就業規則を変更しなければなりません。
厚生労働省のホームページでは新たな労働条件明示ルールに関するリーフレットに加え、既に新しい労働条件通知書のフォーマット(イメージ版)も公開されています。
まだ手付かずなのであれば、できるだけ早めに追加で明示すべき労働条件と就業規則の確認作業を進めるようにすると、安心ですね。
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