通勤災害で長期休職中の従業員に辞めてもらうことは可能か?
Q. 弊社には、通勤災害で重傷を負って休職している従業員がいます。休職に入って約1か月が経過したところなのですが、症状からみて復帰できるまでには少なくとも1年くらいはかかりそうです。弊社としては退職してもらうか解雇したいと考えているのですが、このような場合に法的に適正かつ円滑な手続きを教えてください。
A. 病気やケガで長期休職している従業員がいれば、会社としてはその従業員には気の毒とは思いながらも辞めてもらいたいと考えるシーンもあるかもしれませんね。
しかしながら、実際にその従業員に退職してもらう、または解雇するには、就業規則において根拠規定がなければなりません。特に解雇については労働契約法第16条において「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効とする。」と規定されているため、その従業員とトラブル(裁判など)にならないよう慎重に手続き進める必要があります。
以下では、通勤災害による長期休職している従業員に退職してもらう、または解雇する場合の注意点について、より詳しく説明しています。
さらに詳しく…
休職期間が満了したことによる退職について
そもそも、休職制度を設けることは労働基準法上の義務ではありませんが、多くの会社では休職制度を設け、その詳細については就業規則に明記していることと思います。
該当従業員を休職させているということは、就業規則に休職に関する規定があり、その規定では恐らく、業務外の傷病(私傷病)による休職期間の上限(3か月~1年の場合が多いと思います)、そして、その期間が満了しても傷病が治癒せず就業が困難な場合には退職とする、と明記しているのではないかと思います。
時折、休職規定に「通勤途上の休職」を漏らしている就業規則、拝見することがあります。「通勤途上の病気けが」が、「私傷病」に当たるかどうかは、疑義が生じますので、休職規定には、「通勤途上の病気けが」の休職期間をもうけておくことをお勧めします。
該当従業員には休職に入る前(あるいは休職に入ったあとできるだけ早く)に休職期間が満了となった時点で退職になること、また、退職後も通勤災害に関する保険給付は受け続ける事ができることなどを説明したうえで、休職期間が満了となるタイミングで退職してもらえばよいでしょう。
業務に復帰できない事による解雇について
「休職規定」がない場合は、「解雇」を検討することになります。
労働災害(いわゆる「労災」)によって負傷、休職(休業)している者を解雇できるのかという点については、労働基準法第19条において「使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間は解雇してはならない。(一部略)」と規定されています。
労災には業務災害と通勤災害の2つがありますが、上記の労働基準法第19条の規定に「労働者が業務上負傷し…」とあるように、この規定が適用されるのは業務災害だけであるため、この規定の整理だけで言えば、通勤災害によって負傷、休職している者を解雇することは可能です。(※)
※この業務災害と通勤災害の扱いの差は、もともと労災制度が発足した当初は業務災害だけが保険給付の対象であったところ、昭和48年の法改正によって整理としては業務外である通勤中の災害についても追加で保険給付の対象になったという経緯があります。
ただし、実際に通勤災害により休職中の従業員を解雇するためには、冒頭で説明したとおり、就業規則にその根拠規定(解雇する場合の事由として「身体の障害により業務に耐えられないとき。」などを明記している。)が必要になりますし、その解雇が客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められるものである必要があります。
つまり、該当従業員の主治医あるいは産業医から、業務に復帰できないことを証明できる診断書を入手する必要があります。さらに、仮にその従業員を職種を限定して採用していないのであれば、別の業務に就かせることで、なんとか復帰できないのかなども検討し、会社として復帰させる努力をしたという姿勢も示したうえで解雇すべきでしょう。
なお、従業員を解雇するためには労働基準法第20条の規定により、該当従業員には原則として30日前に解雇の予告をしなければなりませんので注意してください。(30日分以上の平均賃金を支払えばすぐに解雇することができますし、例えば、10日分の平均賃金を支払えば20日前に解雇の予告をすることもできます。)
専門家からのひとこと
労災による休職中の場合に限りませんが、従業員に退職してもらう、あるいは、解雇するためには上記で説明したとおり就業規則に根拠規定が必要です。
解雇は簡単にできるものではないということを十分に理解しておいてください。
退職や解雇は、その従業員の生活を一変させる事ですので、退職させた後、解雇した後でトラブルになることも少なくありません。
会社としては判断を下す前にその従業員には丁寧に説明したうえで就業規則や法令に則って慎重に手続きを進めるようにしてください。
退職や解雇は、その従業員の生活を一変させる事です。簡単にできるものではないということを十分に理解しておいてください。