就業規則をめぐるトラブル例
就業規則をめぐるトラブルの中でも、ご相談の多い実例をご紹介しながら、就労規則の改善ポイントを解説します。
事例1 退職して独立した従業員が、会社のお客様リストを使って営業活動
事例2 採用後、判明した重度の持病
事例3 バイトテロへの対応
事例1 退職して独立した従業員Bは、退職前に得たお客様リストを使って営業活動
紛争のあらまし
A整骨院を退職した元従業員Bは、A整骨院を退職し、独立するにあたり、A整骨院での勤務中に得たお客様リストを元に営業活動を行った
就業規則改善ポイント
競業避止義務についての規定がなかった
(競業避止義務)
第〇条 従業員が退職し、又は解雇された場合は、会社の承認を得ずに離職後6ヵ月間は県内において会社と競業する業務を行ってはならない。また、会社在職中に知り得た顧客と離職後1年間は取引をしてはならない。
就業規則改善ポイントの解説
競業避止義務は、憲法に規定されている職業選択自由と競合する部分です。上記事件では、在職中に企業の準備をしていたということで、裁判所に申し立てた場合、差し止めや損害賠償も可能ではないかと推測はできますが、個々の案件により、微妙な問題を含んでいます。
しかしながら、上記規程が対向の手段の一つとなりますので、ないよりはあった方がいいと思われます。また似たような問題としては、職務発明規程があります。
事例2 採用後、判明した重度の持病
紛争のあらまし
飲食店Cにおいて、採用されたDには、採用時には申告のなかった「てんかん」の持病があったことが発覚した。Dは就業中、てんかんの発作を起こし、お客様をお見送りするために出ていた階段から転落し、救急車で運ばれる事態となった
就業規則改善のポイント
採用時の提出書類の中に、誓約書や申告書等の書類が不足していた。本人からの申告がなかったとしても、企業の側にも、申告せざるえないような仕組み作りが不足していた。
第〇条 (採用決定時の提出書類)
1、就職希望者が職員として採用されたときは、原則として、入職後5日以内までに次の書類を提出しなければならない。ただし、法人が認めた場合は、提出期限を延長し、又は提出書類の一部を省略することがある。
(1)誓約書
(2)身元保証書
(3)源泉徴収票(入職の年に給与所得のあった者)
(4)年金手帳(既に交付を受けている者)
(5)資格証等その他法人が必要とする書類
2、前項の提出書類の記載事項に変更が生じたときは、速やかに書面で法人にこれを届出なければならない。
就業規則改善ポイントの解説
誓約書の中に網羅する項目としては、以下のようなものが考えられる。
- 企業秩序をまもり、御社の就業規則を遵守して働く、という項目。
- 心と体は健康で、御社で働く意思と能力がありますよ。という項目
- SNSの使い方
- 守秘義務
- その他会社の考え方で服装やアクセサリー、挨拶などの項目まで網羅する企業もあります。
事例3 開発の重要ポジションにある従業員からの副業の申し出
紛争のあらまし
飲料メーカー企業Eの、開発チームの重要なリーダー的ポジションにある従業員Fから、兼業の申出があった。兼業先は、競合他社ではないものの、近接企業であり、製品開発上の秘密が漏れるおそれがあった。しかし、E社の就業規則は、兼業禁止の規定を廃止したばかりであった。
就業規則改善のポイント
社会情勢としては、兼業を認める方向性にあるが、社員全員の兼業を認めてよいのか、兼業ルールの再検討が必要。場合によっては、「開発」など重要ポジションの一部の従業員には、兼業禁止を課すことを検討してもよいかもしれない。
「健康配慮義務」や「営業機密保持」の観点から無秩序な兼業を禁止することは必要なので、兼業を認めるならば、「兼業の許可制」の導入を検討すべき。
第〇条 (兼業の許可制)
1、労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することを禁止する。ただし、会社の許可を得た場合は、この限りにはない。
2、労働者は、前項の業務に従事するにあたっては、事前に、会社に所定の届出と誓約書を提出するものとする。
3、第1項の業務に従事することにより、次の各号のいずれかに該当する場合には、会社は、これを禁止又は制限することができる。
1. 労務提供上の支障がある場合
2. 企業秘密が漏洩する場合
3. 会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合
4. 競業により、企業の利益を害する場合届出なければならない。
5. その他上記に準じる事由があるとき
就業規則改善ポイントの解説
誓約書や、一定の提出書類の中に、「本業に支障をきたした場合は、アルバイトを中止させることがありますよ」ということで一定の歯止めをかけておく。