治療と仕事の両立支援~病気を抱えながら働く~

両立支援

仕事との両立支援と言えば、育児や介護と仕事の両立支援を思い浮かべる方が多いかもしれませんが、今回は「治療と仕事の両立支援」について解説します。

治療と仕事の両立支援が求められている背景

現時点の日本において、病気の治療と仕事の支援(以下、「両立支援」)が求められる理由としては次のような背景が挙げられます。

少子高齢化

ご存知のとおり、日本では少子高齢化が進んでいます。内閣府の資料(令和4年版高齢社会白書)によると、日本の生産年齢人口(15~64歳)は1995年には総人口の約69.4%にあたる8,716万人であったが、これをピークに減少し続けており、2050年には約5,275万人にまで減少し、2050年には推計人口の約51.8%になると予想されています。

このことは各企業においていま以上に人手不足になっていくことを意味しますが、政府としては少子化対策を講じつつも、高齢者や障害をお持ちの方でも働きやすい職場環境の整備、そして今回取り上げているある病気で治療中の方でも働けるのであれば働いてもらえる仕組みをつくる必要があると考えています。

医療技術の進歩

例えば、がんのようにかつては「不治の病」とされていた病気も、昨今の医療技術の進歩によって生存率が上がっており、早期の発見であれば、入院せず通院で治療できるケースも増えています。

このことを理解している企業では、従業員が治療をしながら仕事を続けられるようにしているところもありますが、まだまだ対応している企業は少ないというのが現状です。

企業と従業員の思い込み

企業としては、従業員ががん、心疾患、脳血管疾患などのいわゆる「三大疾病」などの深刻な病気になると、例え通院での治療になったとしても、該当従業員に治療に専念してもらうためにも退職してもらわなければならない、また、該当従業員としても会社に迷惑をかけるので退職しなければならない、と考えている企業、従業員はまだまだ多いと思います。

政府としては、上記で説明したとおり、仮に従業員が三大疾病になったとしても、その症状によっては治療と仕事を両立できるということを、企業、労働者に理解してもらい、両立支援制度と整えてもらいたいと考えています。


厚生労働省のガイドラインについて

上記で説明した背景を踏まえ、厚生労働省では、企業において「病気の治療と仕事の両立」を実現させるためには、どのような取り組みが必要であるのかなどをまとめたガイドラインを公表しています。

このガイドラインは、平成28年の2月に「事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン」として初めて公表され、その後、改訂を重ね、いま現在の最新版は「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン(令和6年3月版)」になります。

このガイドラインのねらいと記載内容、そして対象者、対象疾病は次のとおりです。

ガイドラインのねらいとその内容

このガイドラインには、治療が必要な疾病を抱える労働者が業務によって疾病を増悪させることなどがないよう、企業において適切な就業上の措置を行いつつ、治療に対する配慮が行われるようにするため、関係者の役割、企業における環境整備、個別の労働者への支援の進め方を含めた、企業における取り組みがまとめられています。

ガイドラインの対象となる者・疾病

このガイドラインは、主に、事業者、人事労務担当者、産業医、保健師、看護師などの産業保健スタッフ、また、労働者本人や、家族、医療機関の関係者などの支援に関わる方を対象として作成されています。(このガイドラインとは別に、企業と医療機関が情報のやりとりを行う際の参考となるように、「企業・医療機関連携マニュアル」というものも公開しています。)

また、このガイドラインが対象としている疾病とは、がん、脳卒中、心疾患、糖尿病、肝炎、その他難病など、反復・継続して治療が必要となる疾病とされており、短期で治癒する疾病は対象とされていません。

ちなみに、このガイドラインとは別の話になりますが、厚生労働省は不妊治療についても仕事と両立させる必要があるとの方針を打ち出している(助成金もあり)ため、企業には上記の難病などとの両立支援とともに対応していくことが望まれています。


両立支援を行うための環境整備(実施前の準備事項)

ガイドラインでは、企業において両立支援を行うための環境整備、つまり、実施前の準備として必要な取り組みが詳細に記載されていますが、ここでは要約して説明しています。

①基本方針などの表明と労働者への周知

企業として、両立支援に取り組むに当たっての基本方針や具体的な対応方法などのルールを整えて、全ての従業員に周知します。

この周知は、社内における両立支援に対する意識を高めるためにも、企業のトップである社長自らが従業員に説明したり、社長名義の文書を全従業員に発出する形にした方がよいでしょう。

②研修などによる両立支援に関する意識啓発

治療と仕事の両立支援を円滑に実施するため、当事者やその同僚となり得る全ての労働者、管理職に対して、治療と仕事の両立に関する研修等を通じた意識啓発を行う。

これをきちんと行っていないと、例えば、両立支援を申し出た同じ部署の従業員から「自分の業務負担が増える」などと批判的な声があがることがあります。

③相談窓口などの明確化

両立支援は従業員からの申し出からスタートすることになります。そのためには、まず、どこに相談したらよいのか、どこに申し出ればよいのかなどを明確にしておかなければなりません。総務部が対応するのか別の対応窓口を設置するのかについては企業によって異なるとは思いますが、これらを全従業員に周知しておかなければなりません。

④両立支援に関する休暇制度・勤務制度などの導入

両立支援を求める従業員の症状に応じて仕事をしてもらえるよう、休暇制度として「時間単位の年次有給休暇」、「傷病休暇」、「病気休暇」、勤務制度として、「時差出勤」、「短時間勤務」、「在宅勤務(テレワーク)」などの制度を導入する。


両立支援の進め方

上記の「両立支援を行うための環境整備(実施前の準備事項)」と同様にガイドラインでは、実際に両立支援をどのように進めていくべきかについて詳細に記載されていますが、ここでも要約して説明しています。

①従業員から両立支援の申し出

治療と仕事の両立支援は、私傷病である疾病(つまり、労災による病気ではないということ)に関わるものであることから、企業側としては、まず、従業員本人から両立支援を求める申し出を受けてから両立支援の取り組みを開始することになります。

なお、該当従業員が企業側に両立支援を求める際、該当従業員は企業側が定める両立支援の検討に必要な情報(現在の症状や治療方針、就業継続の可否に関する意見など)について主治医から提供を受け(具体的には企業側が定める様式に記載してもらう)、その情報を企業側に提出することが望ましいとされています。

②企業側が就業継続の可否を判断

企業側は、該当従業員から提供のあった情報について、主治医や産業医の意見を勘案したうえで、該当従業員の就業継続の可否を判断します。

この際、就業継続に関する希望の有無や、就業上の措置、治療に対する配慮に関する要望について、該当従業員本人から聴取し、十分な話し合いを通じて本人の了解が得られるよう努めることが必要とされています。

③両立支援プランの作成

企業側が該当従業員の就業継続が可能と判断した場合には、具体的な措置や配慮の内容、スケジュールなどについてまとめた「両立支援プラン」を策定することが望ましいとされています。

なお、ガイドラインでは両立支援プランには次の3事項は盛り込んでおくこと望ましいとされています。

  1. 治療・投薬などの状況および今後の治療・通院の予定
  2. 就業上の措置(業務内容の変更など)および治療への配慮の内容(定期的な休暇の取得など)、実施時期・期間
  3. フォローアップの方法およびスケジュール(産業医等、保健師、看護師等の産業保健スタッフ、人事労務担当者等による面談など)

④両立支援の実施、必要に応じて両立支援プランの見直し

上記の両立支援プランに基づき、必要な就業上の措置および治療への配慮を実施します。

ただし、治療の経過によっては、必要な措置や配慮の内容、時期・期間が変わることも考えられますので、適宜、該当従業員に状況を確認し、必要に応じて両立支援プラン、就業上の措置および治療に対する配慮の内容を見直すことが必要になります。


企業が両立支援に取り組むメリット

企業が両立支援に取り組むためには、当然ながら労力と時間がかかり、また、実際に両立支援を申し出る従業員が出てきた場合、同じ部署の者が自分の業務負担が増えるなどと声を上げる者も出てくるかもしれません。企業側としてはその他、色々と頭を悩ませる場面は増えるとは思います。ただし、企業が両立支援に取り組むことについては長期的にみるとメリットしかないと言えます。

最後に、企業が両立支援に取り組むメリットについて企業側と従業員側に分けて説明します。

企業側のメリット

企業側のメリットととしては、次のようなことが挙げられます。

  • 長年働いてもらっている従業員ががんなどになったとしても、短時間でも働けるのであれば、働いてもらった方が引き続きその従業員のノウハウを活用できること。
  • 離職率の低下につながる。
  • 従業員の仕事に対するモチベーションが向上する。(それが生産性の向上につながる。)
  • 両立支援に取り組んでいる企業であることを対外的にアピールすることで新たな人材の確保につながる可能性がある。
  • 両立支援に取り組んだ企業が中小企業であり、その取り組みについて所属する事業主団体等(一定の要件あり)から援助を受けて行っている場合には独立行政法人労働者健康安全機構の「団体経由産業保健活動推進助成⾦」が事業主団体等に支給される可能性がある。

従業員側のメリット

従業員側のメリットととしては、次のようなことが挙げられます。

  • がんなどになったとしてもすぐに退職しなくてもよいと認識でき、安心して働けること。
  • 治療を受けながらも仕事を継続できることで引き続き安定的な収入を得られること。
  • 病気を理由に退職すると社会との関わりが少なくなり、ふさぎ込んでしまう可能性があるが、引き続き働ければ人とのつながりを感じることができること。

まとめ

治療と仕事の両立支援については、大企業だけでなく中小企業でも既に対応しているところもありますが、まだ対応できていない中小企業は多いです。そもそも中小企業であれば、産業医や衛生委員会なども設置していない(設置義務があるのはともに労働者数50人以上の事業場)ところも多く、制度化することに一定の難しさもあるでしょう。

しかしながら、企業の規模を問わずいまいる従業員も高齢化していきます。例えば、両立支援に取り組んでいない企業で両立支援を希望する従業員が出てきたら、そのタイミングで両立支援に取り組んでいかなければならなくなるでしょうから、早めに導入を検討しておくべきでしょう。どのように導入したらよいのかよくわからずお悩みのようであれば、当事務所にお問い合わせください。


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