中退共脱退について~2025年度付加退職金ゼロの影響と対策~

中退共の財政悪化と付加退職金ゼロの衝撃
登場人物紹介
- 笹川社長(31歳):工務店三代目。アパレル・雑貨・飲食と新事業を次々展開するやり手でITにも強いが、神経質でストレスですぐお腹が痛くなる。
- 佐藤常務(58歳):先々代から笹川工務店を支える経理のエキスパート。大番頭的存在で笹川社長をかわいがっている昭和の人。
- 上岡ひとみ社労士:開業21年のベテラン。230社の顧問先を持つ。笹川工務店の新しい社労士として参画
2025年度から中小企業退職金共済(中退共)の付加退職金支給率がゼロになりました。741億円の赤字という深刻な財政状況が背景にあり、多くの企業が退職金制度の見直しを迫られています。

笹川社長:
「上岡先生、お疲れ様です。実は佐藤常務から気になる話を聞いたんですが、中退共の付加退職金がゼロになるって本当ですか?」



上岡社労士:
「こんにちは、笹川社長。はい、残念ながら本当です。2025年度から中退共の付加退職金支給率がゼロになりました。」



佐藤常務:
「先生、うちは創業以来ずっと中退共に加入してきたんですが、これはどういうことなんでしょうか?」



上岡社労士:
「佐藤常務、中退共の2024年度の収支を見ると、掛金収入が4500億円に対して、退職金支払等が5241億円で、741億円の赤字なんです。財政状況が厳しくなっているんですね。」



笹川社長:
「えっ、そんなに赤字なんですか?それで付加退職金がなくなるって…お腹が痛くなってきました。」



上岡社労士:
「選択肢としては、現在の中退共を継続するか、解約して別の退職金制度に移行するかですね。ただし、昨今の物価高を考えると、積立金は目減りしていく事になります。解約を検討される場合は、いくつか注意点があります。」
中退共解約時の条件と損失リスク
中退共の解約には厳格な条件があり、加入期間によっては大きな損失が発生する可能性があります。特に24か月未満の解約では元本割れが確実で、企業にとって重要な判断材料となります。



笹川社長:
「解約する場合の手続きはどうなるんですか?」



上岡社労士:
「解約手続きについては、中退共に連絡して必要書類を取り寄せ、加入者の方々に手続きをしていただく流れになります。ただし、解約には条件があるんです。」



佐藤常務:
「条件と申しますと?」



上岡社労士:
「はい。まず掛金納付月数が12か月未満の場合は、解約手当金は一切支給されません。12か月以上24か月未満の場合は、掛金総額を下回る額になってしまいます。」



「ええっ、元本割れするってことですか?」



上岡社労士:
「そうです。さらに、掛金助成制度を受けた方は、助成金相当額か解約手当金の3割のうち、少ない方が減額されます。24か月以上掛けていて、助成制度を受けていない場合のみ、全額支給されます。」



佐藤常務:
「先生、解約手当金の税務上の取り扱いはどうなるんでしょうか?」



上岡社労士:
「解約金は所得税上『一時所得』になります。給与所得者で給与所得以外の所得が20万円以下の場合は確定申告不要ですが、解約金が90万円を超えると確定申告が必要になります。」



「90万円って、意外と低い金額ですね。」



上岡社労士:
「計算式は『(解約金90万円-特別控除額50万円)×1/2=20万円』となるからです。例えば年収400万円、扶養家族2人の方が解約手当金200万円を受け取った場合、(200万円-50万円)÷2=75万円が課税対象となり、所得税増加額が37,500円、住民税増加額が75,000円となります。」
新しい退職金制度への移行と専門家サポート
中退共からの移行先として確定拠出年金や確定給付年金など複数の選択肢があります。企業規模や従業員構成に応じた最適な制度選択には、専門的な知識と経験が不可欠です。



「解約を決めた場合の具体的な手続きを教えてください。」



「手続きの詳細は複雑ですが、基本的には加入者の方々に必要書類への記入・押印をしていただき、必要に応じて住民票などを添付して手続きを進めます。約2か月後に解約手当金が振り込まれる流れです。」



「従業員一人一人が手続きしないといけないんですか?」



「詳細な手続きについては、実際に解約を検討される際に改めてご説明いたします。退職金をどのように移行していくか、これは非常に難しい問題ですので、ぜひ当事務所にご相談ください。」



「先生、解約した場合、今後の退職金制度はどうすればよろしいでしょうか?」



「選択肢はいくつかあります。確定拠出年金(企業型DC)、確定給付年金、退職金前払い制度、自社独自の退職金制度などです。御社の事業規模や従業員の年齢構成を考慮して最適な制度を検討しましょう。」



「なるほど。でも急に決めなくてもいいですよね?」



「もちろんです。まずは従業員の皆さんに現状を説明し、意向を聞いてから慎重に検討されることをお勧めします。」



「ありがたい限りです。さすが上岡先生ですね。」



「はい、ぜひお願いします。従業員のことを第一に考えて、最良の選択をしたいと思います。」



「承知いたしました。中退共の解約や新しい退職金制度のご相談は当事務所へお任せください。詳細な制度比較資料もご用意いたしますので、また改めてご相談の機会を設けましょう。」
まとめ
中退共の付加退職金ゼロ化は、多くの企業にとって退職金制度見直しの転換点となります。解約には様々なリスクが伴います。
上岡社労士からの重要なポイント
【中退共解約を検討する際の重要ポイント】
- 解約タイミングの重要性:24か月未満の解約は確実に損失が発生します。加入期間を必ず確認してください。
- 税務への影響: 解約手当金は一時所得として課税されます。90万円を超える場合は確定申告が必要になることを従業員にお伝えください。
- 助成金の影響:過去に助成金を受けた場合、解約手当金から減額されます。助成金の有無を事前に確認することが重要です。
- 移行先制度の検討:中退共解約後の退職金制度は慎重な検討が必要です。確定拠出年金、確定給付年金、前払い制度など、それぞれにメリット・デメリットがあります。
- 従業員への説明責任:制度変更は従業員の将来に大きく影響します。十分な説明と理解を得ることが不可欠です。
上岡ひとみ社労士事務所より
中退共の付加退職金ゼロ化は、多くの企業にとって退職金制度見直しの転換点となります。解約には様々なリスクが伴うため、専門家のアドバイスを受けながら慎重に判断することが重要です。具体的な手続きについては、必ず専門家にご相談ください。