新型コロナに関する労務管理〜従業員の感染にかかわる企業対応〜

2023年9月1日

感染した従業員の職場復帰の考え方

新型コロナウイルスに感染した従業員を職場に復帰させるタイミングについては、完全に症状が治まった時点で体調などを考慮して決定することになりますが、厚生労働省の「新型コロナウイルス感染症患者の退院及び就業制限の取扱い」も知っておく必要があります。

厚生労働省が各都道府県などに発出している「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律における新型コロナウイルス感染症患者の退院及び就業制限の取扱いについて(一部改正)」(健感発0612第1号・令和2年6月12日)によると、新型コロナウイルス感染症患者の退院および就業制限については、次のように取り扱うこととしています。
※以下の整理については今後見直される可能性があります。

新型コロナウイルス感染症患者の退院基準

新型コロナウイルス感染症患者の退院基準は、有症患者であるのか無症状患者であるのかにより次のとおりとされています。

  • 有症状患者の退院基準
    発症日から10日間経過し、かつ、症状軽快後72時間経過した場合に退院可能とする。
    ただし、発症日から10日間経過以前に症状が軽快した場合、症状の軽快から24時間経過後、24時間以上の間隔をあけて2回のPCR検査で陰性を確認できた場合も退院可能とする。
  • 無症状患者の退院基準
    発症日から10日間経過した場合に退院可能とする。
    ただし、発症日から6日間経過後、24時間以上の間隔をあけて2回のPCR検査で陰性を確認できた場合も退院可能とする。

なお、無症状や軽症の場合には入院ではなく、保健所の案内により宿泊療養や自宅療養となる場合がありますが、この場合でも上記の基準が適用されることになっています。
つまり、宿泊療養や自宅療養の場合であっても、発症から少なくとも10日間は経過していないと、職場に復帰させることはできないということです。
また、この「10日間」については、2020年6月中旬までは「14日間」とされていたことも踏まえ、従業員の状態を確認しながら、職場復帰のタイミングを決定することが必要です。

陰性証明書の提出を求めることについて

感染した従業員を職場に復帰させる際に、職場の安全を担保するためにその従業員に新型コロナウイルスの陰性証明書などの提出を求める会社があります。

この点について、厚生労働省が各都道府県などに発出している「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律第 18 条に規定する就業制限の解除に関する取扱いについて」(事務連絡・令和2年5月1日)によると、「就業制限の解除については、医療保健関係者による健康状態の確認を経て行われるものであるため、解除された後に職場等で勤務を開始するに当たり、職場等に証明を提出する必要はない」としています。

そもそも医療機関の対応としても、陰性証明書は海外渡航時以外には発行していないことが多いですし、復帰する従業員に陰性証明書の提出を強要しないように注意が必要です。

感染拡大を防止するための職場の消毒

新型コロナウイルスの感染拡大を防止するためには、日頃から職場を消毒することが重要ですし、従業員に感染者が出た場合には保健所から職場の消毒を求められることもあります。

職場の消毒について、一般社団法人日本渡航医学会と公益社団法人日本産業衛生学会が作成している「職域のための新型コロナウイルス感染症対策ガイド 第2版」(2020年6月3日版)によると、次のようにまとめられています。
※以下の整理については今後見直される可能性があります。

事業所の消毒に関する基本的な考え方

  • 消毒前には中性洗剤等を用いて表面の汚れを落としておくこと。
  • アルコール消毒液(70%~80%)もしくは次亜塩素酸ナトリウム(0.05%)を用いること。
  • トイレの消毒については次亜塩素酸ナトリウム(0.1%)を用いること。
  • 消毒は拭き取り(清拭)を基本とし、消毒剤の空間への噴霧は行わないこと。
  • 適切な個人保護具(マスク、手袋、ガウン等)を用いること。

平素からの消毒

  • 不特定多数が触れるドアノブ、手すり、エレベーターのボタンなどを定期的に消毒すること。
  • 不特定多数が利用するトイレ(床を含む)を定期的に消毒すること。
  • 消毒は最低でも1日1回行うこと(複数回の実施が望ましい)。
  • 机や椅子、パソコン、電話機などは、使用後に各自で消毒することが望ましい。

感染者(感染を否定できない場合を含む)が発生した時の消毒

  • 保健所からの指示に従って事業者の責任で職場の消毒を実施すること。
  • 保健所からの指示が無い場合には、消毒の対象は感染者の最後の使用から3日間以内の場所とし、消毒作業前には十分な換気を行うこと。
  • 消毒範囲の目安は、感染者(感染を否定できない場合を含む)の執務エリア(机・ 椅子など、少なくとも半径2m程度の範囲)とし、トイレ、喫煙室、休憩室や食堂などの使用があった場合はそのエリアの消毒も行う。

取引先などへの対外的な対応

従業員に新型コロナウイルスの感染者が出れば、外部に濃厚接触者がいることも考えられますので、その従業員の行動履歴なども調査のうえ、取り引き先など感染が疑われるところに連絡しなければなりません。
その他、ビルの所有者・管理会社にも連絡が必要ですし、必要に応じて、対外的な公表も検討することになります。

濃厚接触者がいると思われる取引先などへの連絡

感染した従業員の行動履歴を調査した結果、取引先などに濃厚接触者がいると判断される場合には、直ちにその取引先などに現在の状況と今後の対応の必要性について連絡しなければなりません。

ビルの所有者・管理会社への連絡

ビルの所有者・管理会社は、施設内で感染者が出ると、今後の利用を制限することや消毒作業の実施を検討しなければなりません。このため、上記の取引先などと同様に直ちに連絡しなければなりません。

外部への公表

従業員が感染したことについては、多くの企業が該当従業員を特定できないようにしてホームページなどで公表しています。
この外部への公表は法的な義務ではありませんが、感染した従業員と接触した取引先や地域住民なども濃厚接触者になり得ることから、企業の社会的責任として公表しているものです。

しかしながら、対外的に詳細情報を公表したばかりに感染した従業員が特定され、その従業員が不利益を被ることも懸念されます。
外部への公表については、どの情報まで公表するのが適切であるのかについて、弁護士などの専門家にも相談のうえ慎重に行うべきと言えます。

まとめ

新型コロナウイルスの感染が疑われる従業員が出た場合には、直ちに出勤を停止させなければなりませんし、休業させる間の賃金をどうするのかについてはあらかじめ労使間で話し合っておくことも必要です。
また、そもそも企業には、従業員が安全に働くことができるように配慮する義務(労働契約法第5条の安全配慮義務)がありますので、少しでも感染するリスクを避ける取り組み(時差通勤やテレワークの導入など)も求められます。