管理職の「罰ゲーム化」とは

【人事・労務の現場から】
〜 いま人事担当者が知るべき背景と処方箋 〜
参考文献:小林祐児『罰ゲーム化する管理職 バグだらけの職場の修正法』(集英社インターナショナル)
「管理職になりたくない」──そんな声が、いま職場のあちこちから聞こえてきます。
ハラスメント対策、働き方改革、多様な部下への対応、プレイングマネージャーとしての業務負荷……。
責任だけが膨らむ一方で、報酬や評価が追いつかない。
パーソル総合研究所の小林祐児氏はこの状況を「管理職の罰ゲーム化」と呼び、日本特有の組織構造上の問題として警鐘を鳴らしています。
本コラムでは、この問題の背景をデータとともに整理し、社労士の視点から企業として今すぐ取り組める対策をご紹介します。
| 📋 この記事でわかること 1. 「管理職の罰ゲーム化」とは何か 2. なぜ今、これほど深刻になっているのか(3つの構造的要因) 3. 昇進意欲の国際比較データが示す日本の異常さ 4. 企業・人事担当者がすぐに着手できる6つの対策 5. 社労士からの処方箋:「筋トレ発想」を捨てよう 6. まとめ:管理職を「罰ゲーム」から「やりがいある役割」へ |
1. 「管理職の罰ゲーム化」とは何か
管理職の罰ゲーム化とは、管理職という役職が「割に合わない罰ゲームのような仕事」として認識されている現象を指します。具体的には次のような状況が重なっています。
- ハラスメント防止法・コンプライアンス強化による心理的プレッシャーの増大
- テレワーク・時短・副業など多様な働き方への配慮が求められるマネジメントの複雑化
- 働き方改革で部下の残業は削減された一方、管理職本人の業務量は増加
- プレイングマネージャーとして自身の数値目標も抱えながらチームを管理する二重負荷
- 賃上げの恩恵が一般社員に集中し、管理職との給与差が縮小
これらが複合的に重なり、「管理職になってもメリットが感じられない」という状況が生まれています。
2. なぜ今、これほど深刻になっているのか
① 組織フラット化による「管理職ポストの希少化と多忙化」
バブル崩壊後、多くの企業が組織のフラット化を進め、管理職の数を削減しました。その結果、一人の管理職が抱えるメンバー数・業務範囲が拡大。さらに「権限は持たせないが責任だけは取らせる」構造が温存され、現場マネージャーの負担は増す一方となっています。
② 「オプトアウト方式」という日本特有の昇進慣行
日本の多くの企業では、正社員は「全員が管理職候補」として扱われ、昇進を断る際だけ意思表示が必要な「オプトアウト方式」を採っています。本人の意欲や適性を事前に確認しないまま管理職に登用するこの慣行が、準備不足のマネージャーを量産し、組織全体の疲弊につながっています。
③ 「管理職研修さえすれば解決できる」という筋トレ発想の蔓延
経営層・人事部門の多くは「管理職の負荷が高いのはスキル不足のせい」と捉え、研修を増やすことで解決しようとします。しかしこれは逆効果です。構造的な問題を個人の能力不足に帰着させることで、管理職はさらに孤立し、バーンアウト(燃え尽き)のリスクが高まります。
3. データが示す日本の深刻な現状
昇進意欲の国際比較データが示す日本の異常さ
| 📊 注目データ(小林祐児氏の調査より) ・日本の管理職意欲(メンバー層):わずか 21.4%(APAC最低水準) ・インド・ベトナムでは管理職意欲が 80%超 ・「出世したい」と答える社員:1998年 19.1% → 2022年 13.2%(博報堂調査) ・バブル崩壊後、日韓のみ「管理職・専門職の死亡率が上昇」という異常な傾向が確認されている ・管理職になっても幸福度は上がらず、主観的な健康度は悪化するという研究結果も |
これらのデータは、日本の管理職問題が単なる「個人の頑張り不足」ではなく、制度・構造・文化に根差した深刻な社会課題であることを示しています。
4. 企業・人事担当者がすぐに取り組める6つの対策
社労士の視点から、今すぐ着手できる実務対応を整理しました。
| 対応項目 | 具体的なアクション |
| 管理職の業務量・負担の実態把握 | 1on1や匿名アンケートで現状を定量的に把握する |
| 「プレイングマネージャー」からの脱却 | 管理職の専任化・権限移譲の仕組みを検討する |
| 管理職の報酬・処遇の見直し | 一般社員との給与差が縮んでいないか確認する |
| 昇進候補者への早期アプローチ | 30代前半からキャリアパスを明示し意欲を育てる |
| フォロワーシップ教育の実施 | メンバー層にも管理職の役割・苦労を共有する |
| 管理職向けサポート体制の整備 | 産業医・EAPなど心理的安全網を用意する |
特に重要なのは「①現状把握」です。管理職の負担を「なんとなく大変そう」で終わらせず、定量的に可視化することが、経営層を動かすための第一歩になります。
5. 社労士からの処方箋:「筋トレ発想」を捨てよう
「管理職研修を増やせばよい」「タフな経験を積ませれば育つ」——これが小林氏のいう「筋トレ発想」です。しかしこのアプローチは、構造的な問題に目を向けず、個人への負荷を高めるだけです。
社労士として多くの企業の現場を見てきた経験からも、同様の認識があります。管理職が疲弊している本当の原因は「制度設計のバグ」にあります。解決の方向性として、書籍では4つのアプローチが示されています。
| 💡 罰ゲーム化を修正する4つのアプローチ(小林氏の提言より) ① フォロワーシップ・アプローチ:メンバー層も管理職の役割を理解し、能動的にサポートする文化をつくる ② ワークシェアリング・アプローチ:権限委譲(デリゲーション)で管理職の業務を適切に分散する ③ ネットワーク・アプローチ:社内外で相談できる人間関係・コミュニティを設計する ④ キャリア・アプローチ:昇進プロセスを見直し、「幹部候補」と「スペシャリスト型管理職」を早期に分けて育てる |
① フォロワーシップ・アプローチ
:メンバー層も管理職の役割を理解し、能動的にサポートする文化をつくる
② ワークシェアリング・アプローチ
:権限委譲(デリゲーション)で管理職の業務を適切に分散する
③ ネットワーク・アプローチ
:社内外で相談できる人間関係・コミュニティを設計する
④ キャリア・アプローチ
:昇進プロセスを見直し、「幹部候補」と「スペシャリスト型管理職」を早期に分けて育てる
これらは一度にすべてを実施する必要はありません。自社の課題を整理しながら、優先順位をつけて取り組むことが重要です。
6. まとめ:管理職を「やりがいある役割」へ
管理職の罰ゲーム化は、放置すれば次世代リーダーの枯渇、組織の活力低下、ひいては離職率の上昇や採用競争力の低下につながります。しかし逆に言えば、この問題に早期に手を打てた企業は「管理職になりたい組織」として、優秀な人材が集まる職場へと変わることができます。
- 管理職の実態を「見える化」し、経営課題として取り上げる
- 制度・構造・評価制度の見直しをセットで進める
- 「研修だけで解決しよう」という筋トレ発想から脱却する
人事制度や就業規則の見直し、管理職の職務分掌の整理など、具体的な対応については、ぜひ社会保険労務士へご相談ください。貴社の現状に合わせた実務的なサポートが可能です。
