withコロナ期における労務管理
新型コロナウイルス感染症は、まだ完全に収束していないものの一時期と比べればある程度の落ち着きを見せています。
現状では、いわゆる「withコロナ」期に入ったと言われていますが、まだまだ予断を許さない状況です。
withコロナ期に求められる労務管理について解説しています。
企業の安全配慮義務
企業には労働契約法第5条に規定されている「安全配慮義務」があり、従業員が安全に働くことができるように必要な配慮しなければなりません。まずは、withコロナ期に求められる企業の対応について説明します。
感染が疑われる従業員の対応
新型コロナウイルスの感染が疑われる従業員が出た場合には、直ちに最寄りの保健所などに設置されている「帰国者・接触者相談センター(新型コロナウイルス受診相談窓口)」、あるいは、かかりつけ医に相談させる必要があります。
その結果、感染の疑いなしと判断された場合には、通常業務に復帰、あるいは、必要に応じて当面の自宅待機を命じます。
感染していることが判明すれば、感染症法に基づく就業制限(各都道府県知事がその従業員に通知)により休業させることになります。
感染しているのかどうかがわかるまでの期間については、病気休暇などの利用が考えられますし、感染していることが判明して休業させる場合には、健康保険の傷病手当を申請するなど、可能な限り従業員の生活に支障が出ないように配慮をする必要があります。
※休業手当の考え方については、このあと詳しく説明しています。
【参考】新型コロナウイルスに関する帰国者・接触者相談センター/厚生労働省
感染防止に向けた取り組み
企業としては、感染が疑われる従業員や感染した従業員への適切な対応も必要ですが、それ以前に感染防止に向けた取り組みも必要です。例えば、次のような取り組みが考えられます。
テレワークの導入
既に多くの企業で導入されていますが、まだ、導入していないということであれば、第2波や今後の新たな感染症や災害などに備えて導入を検討すべきです
※テレワークの導入については最後にあらためて説明しています。
時差通勤の導入
感染防止には、通勤ラッシュを回避できる時差通勤の導入も有効です。何パターンかの就業時間を設けて、会社側が部署ごとに設定、あるいは、従業員の選択制にするなどの方法があります。また、そもそもの趣旨は違いますが、これを機にフレックスタイム制を導入するのも一つの方法です。
会議の削減
会議は可能な限り減らし、実施する場合には、時間を短縮する、参加者の間隔を空ける、換気に注意するなどを心がける必要があります。
出張の自粛
都道府県によっては、東京などの人口密集地への移動については引き続き不要不急の往来自粛を求めているところがあります。出張もテレビ会議などを活用するなどで当面は可能な限り減らし、実施する場合には、訪問場所や対応者、また移動経路などをこれまで以上に明確に記録させる必要があります。
社内衛生管理の徹底
可能であれば、オフィスのレイアウトを見直して従業員間の距離を少しでも確保し、アクリル板や透明ビニールカーテンなども設置したいところです。また、共有物品(テーブル、椅子など)は定期的に消毒し、従業員には引き続きマスク着用、手洗い・消毒などを徹底させる必要があります。窓が開く場合は一定時間ごとに換気することも重要です。
オフィスにおける新型コロナウイルス感染予防対策については、日本経済団体連合会(経団連)がガイドライン公表していますのであわせてご確認ください。
【参考】オフィスにおける新型コロナウイルス感染予防対策ガイドライン/日本経済団体連合会
休業手当の支払い義務について
社内衛生管理の徹底withコロナ期における労務管理
「休業手当」とは、労働基準法第26条に規定されているもので、その休業が「使用者の責に帰すべき事由」によるものである場合に従業員に支払わなければならない手当(平均賃金の60%以上)のことを言います。
新型コロナウイルスの影響による従業員の休業については、いくつかのケースに分けられますが、それぞれの場合の休業手当の支払いに義務について説明していきます。
感染が判明した従業員などの休業の場合
従業員が新型コロナウイルスに感染していることが判明し、都道府県知事が行う就業制限によって休業させるときは、「使用者の責に帰すべき事由」に当たらないため、休業手当を支払う必要はありません。健康保険に加入している従業員であれば、一定の要件を満たす場合には傷病手当が支給されますので、必要な手続きを案内します。
また、感染が疑われる従業員を会社側の判断で休業させる場合、例えば、「帰国者・接触者相談センター」などが、新型コロナウイルスの感染の疑いはなく、職務の継続が可能と判断した従業員について、会社側の判断で休業させる場合には、「使用者の責に帰すべき事由」に当たり、休業手当を支払う必要があります。
業績悪化による休業の場合
新型コロナウイルス感染症の影響により、事業の休止などを余儀なくされたことで従業員を休業させる場合には、その休業が不可抗力による休業であれば、休業手当の支払義務は生じません。
ただし、この不可抗力による休業であるかどうかは、取り引き先の状況や使用者として休業回避のために努力したのかなどが総合的に判断されることになるため、新型コロナウイルス感染症の影響で業績が悪化し、休業したという事実だけをもって、休業手当の支払いが不要になるというわけではありません。
事業の継続を前提とすれば、従業員との信頼関係もありますので、支払い義務に固執せず、休業手当は支払うべきと言えます。
国や都道府県の要請による休業の場合
現状においては、国の緊急事態宣言は解除され、都道府県の休業要請なども概ね解除されているため、多くの会社は通常業務体制に戻っています。ただし、今後第2波が来れば、あらためて緊急事態宣言や休業要請が出される可能性もありますし、そうなれば、再び従業員を休業させなければなりません。
このように、国や都道府県の休業要請などを受けて従業員を休業させる場合には、休業手当の支払い義務はないものと考えがちですが、厚生労働省は、この場合でも「不可抗力の休業」の理論を適用し、「不可抗力の休業」と言えるためには次の要件を満たしていなければならないとしています。
①その原因が事業の外部より発生した事故であること。
②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であること。
※「事故」としているのは、東日本大震災時の見解をそのまま用いているためです。
国や都道府県の要請がある時点で、①は満たすとしても、例えば、業務的にテレワークに切り替えられるにもかかわらず、その導入について検討もしていないような場合には②の要件を満たしておらず、「使用者の責に帰すべき事由」による休業とされて、休業手当の支払いが必要になるということです。
休業を要請されているわけですから、休業させない努力を求められるのもおかしな話ですが、一般的には、やはり、休業手当を支払って、このあと説明する「雇用調整助成金」で補てんすることになります。
【参考】新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)問7/厚生労働省
第二次補正予算成立後の雇用調整助成金の活用
政府は、新型コロナウイルスとの長期戦が見込まれる中、国民の雇用や生活を守るために、2020年6月12日に第二次補正予算を成立させました。その中では、上記でも説明している「雇用調整助成金」のさらなる拡充についても盛り込まれており、従業員を休業させる場合には積極的に活用すべきと言えます。
第二次補正予算成立による雇用調整助成金の拡充ポイントは次のとおりです。
緊急対応期間の延長
「緊急対応期間」とは、雇用調整助成金において新型コロナウイルスの特例措置が適用される期間のことで、当初は2020年4月1日から6月30日までとしていましたが、9月30日まで延長されます。
上限額の引き上げ
雇用調整助成金の1人あたりの日額の上限が、8,330円から15,000円まで引き上げられます。
中小企業の助成率の引上げ
解雇等を行わない中小企業の助成率が、90%(一定の要件を満たす場合には100%)から一律100%に引き上げられます。
そのほかとしては、制度の拡充というわけではありませんが、支給処理に係る人員体制を強化して、これまで以上に支給の迅速化を図ることとしています。
【参考】令和2年度厚生労働省第二次補正予算(案)の概要/厚生労働省
テレワークを導入する場合の注意点
テレワークの導入については、緊急的に導入する場合はともかくとして、基本的には、社内規程を整備し、その他必要な準備を進めたうえで導入することになります。
具体的には次のような準備が必要になります。
規程の整備
テレワークを導入するにあたっては、例えば、次のような事項を社内規程(「テレワーク勤務規程」など)に規定しておく必要があります。
※就業規則に盛り込んでも構いませんが、分量が多くなるため、一般的には別規程とします。
①テレワーク勤務の定義
テレワークと言えば、まず、「在宅勤務」を思い浮かべますが、そのほかにも移動中や顧客先などでの「モバイル勤務」、勤務先以外のオフィススペースなどでの「サテライトオフィス勤務」などがあります。自社で導入するものは具体的にどのような内容のものであるのかを定義します。
②対象者
上記のテレワークを全従業員に適用するのか、一部の従業員に適用するのか、また、勤続年数(勤続1年以上など)や、在宅勤務の場合には通信環境があることなどの適用制限を設けるのかなどについて規定します。
③労働時間・休憩時間
テレワーク時の労働時間や休憩時間は通常勤務時と同様であるのか、あるいは、取り扱いを変更するのかなどについて規定します。
④時間外・休日・深夜労働
テレワーク時の残業は通常勤務時と同様であるのか、あるいは、取り扱いを変更(許可制、原則禁止など)するのかなどについて規定します。
⑤利用申請
テレワークをするにあたって、所属長への事前の申請や許可を受けることなどについて規定します。
⑥通勤手当
テレワークをした日数により、実費支給とすることなどについて規定します。
⑦機器の貸与・費用負担
テレワークに必要なパソコンやスマートフォンなど必要な機器の貸与について、また、自宅回線の通信費などの負担割合について規定します。
労働時間の管理
従業員の労働時間の状況を把握することは、労働安全衛生法第66条の8の3で義務付けられていることですが、これはテレワーク勤務者であっても同様です。
よって、これまでと同様の労働時間管理ができなくなるのであれば、何かしらの管理方法を検討しなければなりません。
例えば、次のような方法で労働時間を管理していくことが考えられます。
①始業・終業時にメールや電話で報告させる
毎日、始業・終業時に直属の上司へメールや電話をさせることで労働時間を管理します。
②業務日報を提出させる
毎日、始業・終業時刻を記載した業務日報を提出させることで労働時間を管理します。
③クラウド型の勤怠管理システムなどを導入する
テレワーク勤務者が使用するパソコンにクラウド型の勤怠管理システムをインストールさせるか、タイムレコーダーアプリなどをスマートフォンにダウンロードさせて、そこで始業・終業時刻を打刻させて労働時間を管理します。
管理者の手間を考えると、③の方法が現実的と言えますが、会社の状況に応じて、適切に管理できる方法を選択すれば問題ありません。
職場外で業務が行える環境整備
テレワークを導入するためには、対象となる従業員が使用するパソコンなどの情報通信機器を用意して、社外で通常業務が行えるように環境を整えなければなりません。
在宅勤務を前提とすれば、必要なソフトがインストールされたパソコンのほか、テレビ会議用のカメラやヘッドセット、スマートフォン、また、業務内容によってはFAXやプリンターあるいは複合機なども必要になります。
セキュリティ対策
テレワークを導入することで、これまで以上に情報漏えいのリスクが高まります。このため、次のようなセキュリティ対策を実施する必要があります。
①VPNの導入
VPN(Virtual Private Network)とは、暗号化されたネットワークを構築し、離れた拠点間でも安全な環境でデータ通信ができる仕組みのことですが、テレワークの導入には必須のセキュリティ対策と言えます。
導入するためには、会社にVPN装置を設置し、テレワーク勤務者のパソコンにVPN接続用のソフトウェアをインストールするなどの作業が必要になりますが、専門業者が数多く存在します。
②セキュリティソフトの活用
上記のVPNは、通信上のセキュリティは確保できるものの、ウイルスやマルウェアに対しては効果がありません。このため、テレワーク勤務者のパソコンには、セキュリティソフトをインストールし、VPNとあわせてセキュリティを確保していく必要があります。
③テレワーク勤務者のセキュリティ教育
会社側が技術的なセキュリティ対策を行い、また、情報セキュリティ規程などを整備したとしても、実際に業務を行うテレワーク勤務者がルールを守らなければ、意味がありません。
このため、テレワーク勤務者を対象とするセキュリティに関する研修なども定期的に実施していくことも重要になります。
テレワークにおける具体的なセキュリティ対策については、総務省がガイドラインを公開していますのでご確認ください。
④人事評価
一時的なテレワークでなく、恒常的にテレワーク勤務になる従業員が出てくると、人事評価制度の見直しが必要になることもあります。これは、電話やメール、テレビ会議などでいくらコミュニケーションを密にしたとしても、通常勤務時と比べれば、業務の動きが見えにくいためです。
自社の人事評価制度が完全に成果重視であれば、そのままでも構いませんが、例えば、業務プロセスや勤務態度なども評価項目として置いている場合には、会社全体としてより成果を重視(目標を立てさせてその達成度で評価するなど)する人事評価制度に見直した方がよいと考えられます。
もちろん、テレワーク勤務者と通常勤務者とで適用する人事評価制度を分けて運用する方法もありますが、どちらかが不公平感を抱くことのないような制度にしなければなりません。
まとめ
withコロナ期における労務管理としては、引き続き感染防止の取り組みを進めていくとともに、感染拡大期に暫定対応とした部分をあらためて見直していくことなども求められます。第2波への対応はもちろん、そのほか自然災害などの発生も視野に入れた新たな労務管理体制を再構築していくことが必要です。
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