役員報酬と給与の違いとは?
役員報酬と給与の違いを解説。税法上の差異や支払額の決定方法、手当の有無、損金算入条件を詳しく説明します。
Q. 最近給与計算担当になった者ですが、役員報酬と従業員に支払う給与の違いがまだよく理解できておりません。税法上の取り扱いが異なるというのはなんとなく聞いたことがあるのですが、具体的にどのような違いがあるのか教えてください。
A. 役員報酬とは、文字どおり取締役などの役員に支払う報酬のことですが、この役員報酬と従業員に支払う給与とでは様々な違いがあります。
税法上の取り扱いの違い
具体的には、法人税を計算する際に、従業員に支払う給与は原則としてその全額を損金(益金から差し引くことができる費用)に算入できますが、役員報酬はこのあと説明する一定の要件を満たすものでなければ、損金に算入できません。
なぜこのことが大きな違いなのかと言うと、会社として役員報酬を損金に算入できれば、法人税を減額できるからです。
今回は、そもそも役員とはどのような立場の者を指すのか、また、上記で説明した税法上の取り扱いの詳細を含めた役員報酬と従業員に支払う給与との違いについて解説します。
さらに詳しく…
役員とは?
まずは、「役員」の各法令における定義や会社と役員との契約関係について解説します。
役員の定義
そもそも役員とは、経営方針の決定や組織全体の管理、監督などを担う会社の中核的な役割を果たす者のことを言います。具体的に役員(役員等)とはどの立場の者を指すのかについては、会社法やその他の法令で次のように定義されています。
会社法第329条 | 役員 | 取締役、会計参与及び監査役 |
会社法第423条第1項 | 役員等 | 取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人 |
会社法施行規則第2条第3項第3号 | 役員 | 取締役、会計参与、監査役、執行役、理事、監事その他これらに準ずる者 |
法人税法第2条第15号 | 役員 | 法人の取締役、執行役、会計参与、監査役、理事、監事及び清算人並びにこれら以外の者で法人の経営に従事している者のうち政令で定めるもの |
上記のとおり、役員の定義は各法令によって異なります。それぞれ意味があってこのような定義になっているのですが、まずは、会社法上、役員報酬が支払われる役員は「取締役、会計参与及び監査役」のいわゆる三役、そして、会社の組織形態によっては「執行役」も含める場合があると理解しておいてください。
会社との契約関係
従業員は会社と雇用契約を締結するのに対し、役員は会社と委任契約という契約を締結します。
この「委任」とは、民法第643条の「委任」のことを指しているのですが、同条では「委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによってその効力を生ずる。」と規定されています。
委任契約をわかりやすく言えば、業務委託のような契約であり、従業員のように会社から業務上の指揮命令を受けることなく、どのように業務を行うのかについてはその役員の裁量に任されているという契約になります。
役員報酬と給与の違い
役員報酬と従業員に支払う給与の主な違いは次のとおりです。
支払う額の決定方法
従業員の給与額は、個別の雇用契約(労働契約)や就業規則などによって決定するのに対し、役員報酬の額は、会社法第361条やその他の条項において、定款(会社を運営していくうえで必要となる基本的なルールを定めたもの)または株主総会の決議によって定めなければならないとされています。
ただし、役員報酬の額など定款で定めず、定款では「株主総会の決議で定める」などとしている会社が多いのではないかと思われますが、もし、そのような整理になっているのであれば、株主総会の決議で決定(過半数の賛成が必要)することになります。
なお、役員報酬の額を株主総会でどのように決定するのかについては、役員ごとの報酬額を決定する方法と、役員報酬の総額を決定する方法があります。後者の場合には、その後、取締役会で役員ごとの報酬額を決定することになります。(取締役会を設置していない会社の場合には代表取締役が決定することが多い。)
残業手当などの有無
従業員に法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えて仕事をしてもらった場合、また、深夜(22時~5時)や休日(週1日の法定休日)に仕事をしてもらった場合には、それぞれ残業手当や深夜手当、休日手当を支払わなければなりません。
一方、役員が上記のような時間帯に仕事をしたとしても各種の手当は支払われません。これは、先に説明したとおり役員は会社と委任契約を締結しているため、いわゆる「労働者」には該当しないという整理になり、労働基準法や就業規則などが適用されなくなるからです。
なお、常勤の役員(ゼロ報酬の者を除く)であれば、健康保険や介護保険、厚生年金保険は適用されます。
損金算入の考え方
冒頭で説明したとおり、従業員に支払う給与は原則としてその全額を損金に算入できますが、役員報酬も無条件で損金に算入できるとすれば、役員報酬を不当に高く設定して、法人税額を大幅に引き下げることも可能になります。
このことを防ぐため、役員報酬を損金に算入するためには、役員報酬が次の3種類のいずれかに該当するものでなければならないことになっています。
①定期同額給与
事業年度の間、毎月一定の額を支払う役員報酬のことを言います。
※税務署への届け出は不要です。
②事前確定届出給与
あらかじめ管轄の税務署に届け出たうえで、指定日にまとめて支払う役員報酬(役員の賞与に当たるもの)のことを言います。
※役員の賞与は原則としては損金に算入できないことになっています。
③業績連動給与
会社の利益に応じて支払われる役員報酬のことで、上記の①と②とは異なり、あらかじめその額が確定していないものを言います。
この業績連動給与を損金に算入するためには、さらに「報酬の算出方法が所定の指標を基礎とした客観的なものであること」、「有価証券報告書に算定の方法を記載し、その情報を開示していること」、「同族会社に該当しない国内法人であること」という3つの条件を満たさなければなりません。
※この業績連動給与は、株式を公開していない非上場の会社には適用されません。
専門家からのひとこと
役員報酬と従業員に支払う給与は、会社が業務の対価として支払っているという点において変わりはありませんが、上記で説明したとおり会社との契約方法がそれぞれ異なっていること、また、役員には会社法やその他の法令が適用されることもあり、様々な違いがあります。
なかでも、役員報酬は法人税の計算上、損金に算入するためには一定の要件を満たさなければならないという点については、会社にとって法人税を減額できるかどうかに直結しますので、特に重要なポイントと言えるでしょう。