出張時の移動時間は労働時間になるのか?

2024年3月4日

出張時の移動時間

Q. 弊社はメーカーなのですが、営業担当者には月に1、2回は遠方の得意先に出張してもらっています。弊社では、営業担当者の自宅または会社から得意先への移動時間とその逆の移動時間は労働時間にはしておりません。また、得意先の都合により月曜日の朝に打ち合わせをするとなれば、日曜日のうちに現地に入ってもらうこともありますが、この場合も休日労働の扱いにはしておりません。この整理について法的に問題がありますでしょうか?

A. 結論から申し上げますと、原則としては御社の整理で問題ありません。

この出張時の移動時間が労働時間にあたるのかどうかについては昔からよく取り上げられている問題ですが、厚生労働省の通達や多くの裁判例で一定の考え方が示されています。


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さらに詳しく…

厚生労働省の通達から

かなり昔の厚生労働省の通達になりますが、「出張中の休日はその日に旅行(※)する等の場合であっても、旅行中における物品の監視等別段の指示がある場合の外は休日労働として取り扱わなくても差し支えない」(昭和23年3月17日基発461号、昭和33年2月13日基発90号)としているものがあります。

※言い回しの問題ですが、この「旅行」は「出張」もしくは「移動」と置き換えてください。


移動時間中における業務指示の有無

この通達を踏まえると、会社側が出張者に対して、その移動時間中に何かしらの業務指示をしていない限り、仮に休日中に得意先に出発してもらう場合であってもその移動時間は労働時間(休日労働)にしなくてよいという整理になります。

ただし、この通達に記載があるように、例えば、出張の目的が得意先への商品の運搬などであり、会社側が出張者に対して移動中もその商品を監視するように指示を出しているのであれば、その移動時間は労働時間になるでしょうし、そのほか、新幹線で移動中の出張者に対して得意先に提出する資料を新幹線の中で修正するように指示を出したとすれば、少なくとも出張者が資料を修正している時間は労働時間にしなければならないでしょう。

裁判例では

労働時間に含まれないとの判断

日本工業検査事件・横浜地裁昭和46年1月26日決定

「出張の際の往復に要する時間は、労働者が日常出勤に費やす時間と同一性質であると考えられるから、右所要時間は労働時間に算入されず、したがってまた時間外労働の問題は起こり得ないと解するのが相当」としたもの

横河電機事件・東京地裁平成6年9月27日判決

「移動時間は労働拘束性の程度が低く、これが実労働時間に当たると解するのは困難」としたもの


労働時間に含まれるとの判断

島根県教組事件・松江地裁昭和46年4月10日判決

一方で、「移動時間は業務に付随するものであることから労働時間に含まれる。」とした裁判例などもあります。


しかし、先に説明した2つの裁判例のとおり、出張時の移動時間は原則として労働時間にはあたらないというのが一般的な考え方です。

専門家からのひとこと

出張のために拘束される時間

通達や裁判例はともかくとして、出張者本人にとっては会社から出張時の移動時間は自由にしてよいと言われても、出張のために拘束される時間であることに変わりはありません。このため、出張者には交通費や宿泊費とともに出張手当などとして一定の額を支給することが多いのではないかと思われます。

所長解説

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