自然災害時の休業手当支払いの有無とその判断基準について
2024年4月3日、台湾で地震が起こりました。災害は、どこでも起こり得ます。 先日、能登地震が起きた時、休業手当の有無についてまとめましたので、皆さんとシェアしたいと思います。
地震・台風・津波・大雪など、自然災害時の休業手当支払いの有無とその判断基準
自然災害について
地震・津波・大雨・洪水・河川氾濫・火山噴火・土砂災害・土地の隆起等の異変・積雪災害・路面凍結等
国土交通省・気象庁・都道府県等が出す警戒レベル
警戒レベル | 取るべき行動 | 休業補償の有無 | |
---|---|---|---|
警戒レベル5相当 | 命の危険が迫っているため直ちに身の安全を確保 | 休業期間中の賃金支払不要 | |
警戒レベル4相当 | 危険な場所から避難 | ||
警戒レベル3相当 | 普通の行動の見合わせ避難の準備 | 従業員の安全配慮義務の観点からの休業 | 休業期間中の賃金支払不要 |
使用者の責めに帰すべき休業 | 平均賃金の6割(以上)の休業手当支給必要 | ||
警戒レベル2相当 | 災害想定区域や避難先、避難経路の確認 | 平均賃金の6割(以上)の休業手当支給が必要 |
尚、行政から警戒レベルの発表がなくとも、会社が各警戒レベル相当と判断した場合には、その判断に従った対処が必要です。
危険な場所に会社所在地があるとか、災害弱者たる福祉系の業務であるとか、それぞれの企業の置かれている状況で、個別具体的に判断していただくことになるということです。自社に合った適切なご判断をお願いします。
厚生労働省「地震に伴う休業に関する取扱いについて」
(地震・津波・大雨・洪水・河川氾濫・火山噴火・土砂災害・土地の隆起等の異変・積雪災害・路面凍結等、他の災害の場合も同様です)
1.災害による事業休止時の対応方法について
災害に遭遇し、事業を休止せざるを得なくなった場合、コミュニケーションや支援策を活用することが大切です。
労使間でのコミュニケーション
事業を休止し、従業員を休業させる際には、事業主と従業員がしっかりと話し合い、具体的には、休業することになった背景や理由、休業期間の見込みなど、従業員が知りたいと思う情報を開示し、不安の払しょくにつとめてまいりましょう。
支援策の活用
災害による事業休止で休業を余儀なくされた場合、国や地方自治体、関連団体から提供されている支援策を積極的に活用することで、労働者を守ることができます。支援策には、休業補償や融資制度、税金の猶予などが含まれることが多く、これらを利用することで、従業員だけでなく、事業自体のダメージも最小限に抑えることが可能です。
つまり、災害による事業休止時には、従業員とのコミュニケーションを大切にし、利用可能な支援策を活用して、従業員の不利益を防ぎ、事業の早期復旧を目指すべきです。
2.地震や計画停電による休業時の雇用調整助成金や中小企業緊急雇用安定助成金について
地震や計画停電などの特別な事情により、企業が休業を決定した場合、休業手当の支払いを行うことで、雇用調整助成金や中小企業緊急雇用安定助成金の受給が可能かについての問題です。
雇用調整助成金と中小企業緊急雇用安定助成金は、事業主が休業を実施し、その結果として労働者の雇用を維持しようとする場合に、休業手当等の一部を助成する制度です。地震による経済的な影響で事業活動が縮小した場合や、計画停電によって事業活動が縮小する場合など、「経済上の理由」で休業を実施する事業主は、これらの助成金を受給できます。
助成金の対象となるかは、休業が労働基準法第26条に定める「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当するか否かにかかわらず、事業主が休業に伴う手当を支払う場合に限ります。この点は、地震や計画停電に伴う休業の場合でも同じであり、事業活動の縮小を経済上の理由として休業手当の支払いが行われる場合、助成金の受給が可能です。
助成金を受給するためには、休業等の実施計画の届出を含む一定の要件を満たす必要があります。詳細な情報や申請方法については、最寄りのハローワークや厚生労働省のホームページで確認することができます。
要約すると、地震や計画停電などの特別な事情で休業を実施する場合、休業手当の支払いを伴うならば、雇用調整助成金や中小企業緊急雇用安定助成金の受給が可能です。 企業は、必要な手続きを行い、助成金の受給を検討し、従業員さんの雇用の確保に努めてください。
3.地震による事業場の被害と休業手当の支払い義務について
地震により事業場の施設や設備が直接被害を受け、その結果労働者を休業させる場合が労働基準法第26条における「使用者の責に帰すべき事由」による休業に該当するかに関する問題です。
労働基準法第26条には、使用者の責に帰すべき事由で休業をさせる場合、使用者は休業期間中の休業手当を支払わなければならないと規定されています。この休業手当は平均賃金の60%以上と定められています。しかし、天災事変等の不可抗力による休業の場合は、使用者の責に帰す事由には当たらず、休業手当の支払い義務は生じません。不可抗力の条件としては、事業外部から発生した事故であること、通常の経営者が最大限の注意を払っても避けられなかった事故であることの2点が必要です。
地震による施設・設備の被害は、これらの条件を満たすため、原則として使用者の責に帰すべき事由による休業とは見なされません。つまり、地震による直接的な被害により労働者を休業させた場合、使用者には休業手当の支払い義務は発生しないと考えられます。
この点は、不可抗力による休業と労働条件の変更や休業手当の支払いに関連する他の回答と関連しています。事業主は、不可抗力による休業の場合でも、可能であれば雇用調整助成金などの支援制度を活用し、労働者の雇用維持に努めることが推奨されます。
4.地震による取引先や交通網の被害と休業手当の支払い責任について
地震で、直接事業場に被害はなかったものの、取引先や鉄道・道路が被害を受けたことにより、原材料の仕入れや製品の納入が不可能になり、結果として労働者を休業させる場合が「使用者の責に帰すべき事由」による休業に該当するかどうかについての問題です。
このケースでは、事業場自体は被害を受けていないため、原則としては「使用者の責に帰すべき事由」による休業と見なされます。
しかし、以下の条件を満たす場合は、使用者の責に帰すべき事由による休業とはみなされません。
- 休業の原因が事業の外部から発生した事故であること。
- 事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしても避けることができなかった事故であること。
具体的には、事業主が取引先の選定や輸送経路の多様化、代替手段の検討など、休業を回避するための努力をどの程度行っていたか、災害発生後の対応が適切だったかなど、さまざまな要因を総合的に考慮して判断されます。
この場合、事業主は休業の必要性や避けられなかった理由を明確にし、休業手当の支払いに関する責任の有無を判断する必要があります。また、労働者への情報提供や話し合いを通じて、休業期間や手当の支払いに関する理解を得ることが望ましいです。
5.計画停電による休業時の休業手当の支払い義務について
地震の影響で計画停電が実施され、その停電時間中に休業をする場合、労働基準法第26条に基づく休業手当の支払いが必要かどうかについての問題です。
地震による計画停電は、事業主の管理下ではない外部の事情によって発生するものであり、事業場への電力供給が不可能になるため、この期間を休業とする場合、原則として、これは労働基準法第26条に定める「使用者の責に帰すべき事由による休業」とは見なされません。そのため、このような状況での休業手当の支払いは、労働基準法違反とはならないと考えられます。
この解釈は、計画停電が外部の不可抗力的な事象によるものであるという観点に基づいています。事業主は、このような外部の事象による影響を直接的に管理・回避することは困難です。しかし、計画停電による休業が予測される場合、事業主は可能な限り事前に対策を講じ、労働者の不利益を最小限に抑える努力をすることが望ましいです。これには、代替作業の提供や、可能であれば在宅勤務の導入など、休業を避けるための対策を検討することが含まれます。
また、計画停電による休業期間中の労働者への対応については、事業主と労働者双方の合意形成をしてまいりましょう。
6.計画停電とそれ以外の時間帯を含めた全日休業時の休業手当の必要性について
地震に伴う計画停電が理由で、停電時間帯だけでなく、全日を休業とする場合の労働基準法第26条に基づく休業手当の支払い義務に関する問題です。
計画停電の時間帯に休業する場合は、前述した通り、労働基準法第26条に定める「使用者の責に帰すべき事由による休業」には該当しないと考えられるため、休業手当の支払い義務は生じません。しかし、停電時間帯以外の時間についても休業を決定する場合、原則としてこれらの時間は「使用者の責に帰すべき事由」による休業と見なされ、休業手当の支払いが必要になります。
ただし、企業が計画停電の時間帯以外の労働を行うことが経営上著しく不適当と判断される場合(例えば、停電時間帯の影響で業務が円滑に遂行できないなど)、全日休業にすることが合理的であると考えられる場合は、例外的に休業手当の支払い義務が免除される可能性があります。この判断には、停電以外の時間帯に代替手段や休業回避のための努力がなされたか、計画停電による休業が企業運営に与える影響など、さまざまな要因が総合的に考慮されます。
このような場合においても、労働者への情報提供と協議は重要であり、休業手当の支払いを含めた対応については、信頼関係の維持のため、可能な限り労働者の理解と合意を得ることが望ましいです。また、可能な対策を講じた上での休業決定であることを明確にし、その理由と努力を労働者に伝えることが重要です。
休業手当の計算式
労働基準法第26条では、使用者の責めに帰すべき事由により労働者を休業させた場合には、使用者は、その休業期間中、平均賃金の60%以上の休業手当を労働者に支払わなければならないとされています。
①原則
休業期間初日の直前の賃金締切日から遡る3か月間の「賃金の総額※1」を 「総日数※2」で除した賃金です。
平均賃金額 =直前3か月間の賃金の総額(総支給額)÷ 直前3か月間の総日数(総日数)
※1「賃金の総額」とは、残業手当、住宅手当、通勤手当等の各種手当が含まれた税金等を控除する前の総支給額です。(臨時に支払われた賃金、3か月を超える期間ごとに支払われる賃金等は除きます。)
※2「総日数」とは、所定労働日数ではなく、暦の日数です
②最低保障(日給・時給・出来高給の場合)
「賃金の締切日から遡る3か月間の賃金の総額」を「その期間中に労働した日数」で除した金額の60%
最低保障額 = 直前3か月間の賃金の総額(総支給額)÷ 直前3か月間の労働日数× 0.6
①と②を比較して、高い方が平均賃金になります。
(大分労働局・労働基準監督署より)
従業員の生活の保障について
会社の休業が長期化した場合、従業員さんの生活資金の確保についても考えていく費用があります。
- 天災地変等により全く賃金が支払われない場合は、従業員の生活資金の確保の観点から有給休暇の積極取得を勧める又は振替休日とする事も重要です。
- 会社で生活資金貸付しますと、その後に従業員が返済できなかったりすると、気まずさから、退職につながる恐れもありますので、なるべくやるべきではないでしょう。自治体等の生活資金貸付制度等を調べ、従業員にお知らせしましょう。
- 災害により事業休止・廃止による離職者に雇用保険の基本手当支給、雇用調整助成金の特例措置(休業手当の補助)、社会保険料・雇用保険料の納付猶予、未払賃金の立替払制度、既往債務の返済条件緩和、災害復旧貸付、セーフティネット保証4号(別枠で融資額の100%保証)、小規模企業共済制度災害時貸付、国税の申告納付期限延長等の支援の活用も検討します。