【令和2年度版】介護事業所が介護職員処遇改善加算Ⅰを取得するためには

2023年9月1日

《ディスクリプション》

介護職員処遇改善加算とは、

介護事業所が一定の要件を満たすことで、所定の加算率を乗じた額が介護報酬に加算される制度です。

加算区分は、加算Ⅰから加算Ⅴまでの5段階に分かれていますが、介護事業所としてはより加算率の高い加算Ⅰを取得しておきたいところです。

今回は、この介護職員処遇改善加算の概要を説明したうえで、「加算Ⅰ」を取得するためには具体的に何をすればよいのかについて詳しく解説します。

<介護職員処遇改善加算とは>

介護職員処遇改善加算とは、

介護職員の賃金引き上げを目的としているもので、介護事業所が賃金体系を整備するなど一定の要件を満たせば、所定の加算率を乗じた額が介護報酬に加算される制度です。

この制度は平成23年度まで実施されていた介護職員処遇改善交付金を引き継ぐ形で平成24年度から運用が開始されています。

介護報酬に乗じられる加算率は、

介護事業所がどれだけ要件を満たすのかによって判定される次の加算Ⅰから加算Ⅴまでの加算区分と、

事業所のサービス区分によって決定することになっています。

介護報酬の加算率
介護報酬の加算率

※加算Ⅳと加算Ⅴは一定の経過措置期間の後、廃止することが決定しています。

<加算区分ごとの取得要件>

加算Ⅰから加算Ⅴまでの加算区分ごとの取得要件は次のとおりで、満たす要件が多いほど上位の加算区分になります。

加算Ⅰを取得するためには挙げられているすべての要件を満たす必要があります。)

※加算Ⅰを取得するために具体的に何をしなければならないのかについては後半で詳しく解説しています。

加算Ⅰキャリアパス要件Ⅰ、Ⅱ、Ⅲのすべて+職場環境等要件を満たすこと。
加算Ⅱキャリアパス要件ⅠおよびⅡ+職場環境等要件を満たすこと。
加算Ⅲキャリアパス要件ⅠまたはⅡ+職場環境等要件を満たすこと。
加算Ⅳキャリアパス要件Ⅰ、Ⅱ、職場環境等要件のいずれかを満たすこと。
加算Ⅴキャリアパス要件Ⅰ、Ⅱ、職場環境等要件のいずれも満たさない。
キャリアパス要件Ⅰ
職位・職責・職務内容に応じた任用要件と賃金体系の整備をすること。
キャリアパス要件Ⅱ
資質向上のための計画を策定して、研修の実施または研修の機会を設けること。
キャリアパス要件Ⅲ(加算Ⅰのみに求められる要件)
経験もしくは資格などに応じて昇給する仕組みまたは一定の基準に基づき定期に昇給を判定する仕組みを設けること。
職場環境等要件
賃金改善以外の処遇改善(職場環境の改善など)の取り組みを実施すること。

<加算区分・サービス区分ごとの加算率>

加算率は、加算Ⅰから加算Ⅴまでの加算区分、また、事業所のサービス区分によって次のように整理されています。

訪問介護などのサービスを提供する事業所が加算Ⅰを取得すれば、最も高い13.7%となります。

介護報酬のサービス区分と加算率
介護報酬のサービス区分

※〔介護予防〕訪問看護、〔介護予防〕訪問リハビリテーション、〔介護予防〕福祉用具貸与、特定〔介護予防〕福祉用具販売、〔介護予防〕居宅療養管理指導、居宅介護支援、介護予防支援については、加算算定非対象サービスです。

<加算Ⅰ~加算Ⅲが対象の介護職員等特定処遇改善加算とは>

令和2年10月から、上記の介護職員処遇改善加算の加算Ⅰから加算Ⅲに上乗せする形で、

介護職員等特定処遇改善加算というものも創設されています。

さらに上乗せされる加算率がどのように決定するのかについては、介護職員処遇改善加算と同様の仕組みで、

介護事業所がどれだけ要件を満たすのかによって判定される次の特定加算Ⅰと特定加算Ⅱの加算区分と、

事業所のサービス区分によって決定することになっています。

介護報酬の特定加算と改善加算
介護報酬の特定加算と改善加算

<加算区分ごとの取得要件>

特定加算Ⅰ、特定加算Ⅱの加算区分ごとの取得要件は次のとおりで、違いは特定加算Ⅰを取得するためには

「介護福祉士の配置等要件」を満たさなければならないということです。

特定加算Ⅰ処遇改善加算要件、職場環境等要件、見える化要件、介護福祉士の配置等要件の全てを満たすこと。
特定加算Ⅱ処遇改善加算要件、職場環境等要件、見える化要件の全てを満たすこと。
処遇改善加算要件
介護職員処遇改善加算Ⅰから加算Ⅲまでのいずれかを算定していること
(介護職員等特定加算と同時に介護職員処遇改善加算にかかる計画書の届出を行い、算定される場合を含む。)。
職場環境等要件
平成20年10月から届出を要する日の属する月の前月までに実施した処遇改善(賃金改善を除く。)の内容を全ての職員に周知していること。この処遇改善については、複数の取り組みを行っていることとし、別紙1表4(この記事の最後で紹介しています。)の「資質の向上」、「労働環境・処遇の改善」および「その他」の区分ごとに1以上の取り組みを行うこと。なお、処遇改善加算と特定加算において、異なる取り組みを行うことまでを求めるものではないこと。
見える化要件
介護職員等特定処遇改善加算に基づく取り組みについて、ホームページへの掲載などにより公表していること。具体的には、介護サービスの情報公表制度を活用し、介護職員等特定処遇改善加算の取得状況を報告し、賃金以外の処遇改善に関する具体的な取り組み内容を記載すること。当該制度における報告の対象となっていない取り組みについては、各事業者のホームページを活用するなどなど外部から見える形で公表すること。
介護福祉士の配置等要件(特定加算Ⅰのみに求められる要件)
介護福祉士の割合が一定以上であることが求められるサービス提供体制強化加算などの最も上位の区分(訪問介護の場合は特定事業所加算ⅠまたはⅡ、特定施設入居者生活介護などの場合は、サービス提供体制強化加算Ⅰイまたは入居継続支援加算、介護老人福祉施設などの場合は、サービス提供体制強化加算Ⅰイまたは日常生活継続支援加算)を算定していること。

<加算区分・サービス区分ごとの加算率>

加算率は、特定加算Ⅰ・特定加算Ⅱの加算区分、また、事業所のサービス区分によって次のように整理されています。

訪問介護などのサービスを提供する事業所が特定加算Ⅰを取得すれば、最も高い6.3%となります。.

特定加算別の介護報酬
特定加算別の介護報酬

<介護事業所の加算Ⅰの取得状況>

加算Ⅰを取得するために具体的に何をすればよいのかを説明する前に、

介護事業所の加算Ⅰの取得状況を確認しておきたいと思います。

<加算Ⅰの取得率は約65%>

厚生労働省の調査(平成29年度介護従事者処遇状況等調査)によると、加算Ⅰから加算Ⅴまでのいずれかを取得している介護事業所は全介護事業所の91.2%であるものの、加算Ⅰを取得している介護事業所は全介護事業所の64.9%とされています。

現時点ではもう少し取得率が上がっているかもしれませんが、全介護事業所の賃金引上げを進めていくためにもまだまだ加算Ⅰの取得促進が期待されています。

<加算Ⅰを取得していない理由>

上記の同調査では、加算Ⅱを取得している介護事業所が加算Ⅰを取得していない理由もまとめられていますが、

その中で多くの割合を占めているのは、「昇給の仕組みを設けることで、職種間・事業所間の賃金バランスが取れなくなることが懸念されるため」や「昇給の仕組みを設けるための事務作業が煩雑であるため」であるとされています。

加算Ⅰを取得するためにはその他の加算区分には求められていない、昇給の仕組みも設けなければならないため、

特に小さな介護事業所では、どのように対応すればよいのかわからず取得を敬遠しているところも少なくないことが推察されます。

<加算Ⅰを取得するためには具体的に何をすればよいのか>

加算区分ごとのおおまかな取得要件については冒頭で説明しましたが、

最後に、加算Ⅰを取得するためには具体的に何をすればよいのか、

満たさなければならないキャリアパス要件ⅠからⅢ、職場環境等要件ごとにその対応方法を解説します。

※現在、加算Ⅱから加算Ⅳを取得している事業所であれば、キャリアパス要件Ⅲ以外の要件を少なくとも1つは満たしているはずですので、キャリアパス要件Ⅲやまだ満たしていない要件を中心にご確認ください。

<キャリアパス要件Ⅰの対応>

キャリアパス要件Ⅰを満たすためには、次の1から3のすべてを実施しなければなりません。

1. 介護職員の任用の際における職位、職責または職務内容などに応じた

任用などの要件(介護職員の賃金に関するものを含む。)を定めていること。

2. 1に掲げる職位、職責または職務内容などに応じた

賃金体系(一時金などの臨時的に支払われるものを除く。)について定めていること。

3. 1および2の内容について就業規則などの明確な根拠規定を書面で整備し、すべての介護職員に周知していること。

※「任用などの要件」とは、介護福祉士などの資格要件や経験年数、介護技術、研修受講歴、過去に従事していた職務内容を踏まえて、職位や職責(例えば、介護長、主任、副主任、一般)などを定めることを指します。

また、パート職員などの有期雇用契約により雇用している従業者を正規雇用職員にする場合にあたっての要件を定めることも該当します。

※「賃金体系について定める」とは、職務や職能に応じた等級を定めてそれに応じた基本給を決めることや、

役職、資格、能力、経験や職務内容に応じた手当を定めることなどが該当します。

<キャリアパス要件Ⅱの対応>

キャリアパス要件Ⅱを満たすためには、次の1および2を実施しなければなりません。

1. 介護職員の職務内容などを踏まえ、介護職員と意見を交換しながら、資質向上の目標および次の①または②に掲げる事項に関する具体的な計画を策定し、当該計画に係る研修の実施または研修の機会を確保していること。

資質向上のための計画に沿って、研修機会の提供または技術指導等を実施(OJT、OFF-JTなど)するとともに、

介護職員の能力評価を行うこと。

②資格取得のための支援(研修受講のための勤務シフトの調整、休暇の付与、費用(交通費、受講料など)の援助)を実施すること。

2. 1について、すべての介護職員に周知していること。

※「資質向上の目標」とは、介護職員が利用者のニーズに応じた良質なサービスを提供するための介護技術・能力などの向上、事業所全体での資格などの取得率の向上などを指します。

※「資質向上のための計画」については、様式や基準などは設けられていません。事業者の運営方針や事業者が求める介護職員像、および、介護職員のキャリア志向に応じて適切に設定してよいことになっています。

※「介護職員の能力評価」とは、個別面談や自己評価に対し先輩職員・サービス担当責任者・ユニットリーダー・管理者などが評価を行う手法が考えられます。

<キャリアパス要件Ⅲの対応>

キャリアパス要件Ⅲを満たすためには、次の1および2を実施しなければなりません。

1. 介護職員について、経験もしくは資格などに応じて昇給する仕組みまたは一定の基準に基づき定期に昇給を判定する仕組みを設けていること具体的には、次の①から③までのいずれかに該当する仕組みであること。

経験に応じて昇給する仕組み

「勤続年数」や「経験年数」などに応じて昇給する仕組みであること。

資格などに応じて昇給する仕組み

「介護福祉士」や「実務者研修修了者」などの取得に応じて昇給する仕組みであること。

ただし、介護福祉士資格を有して当該事業者や法人で就業する者についても昇給が図られる仕組みであることを要する。

一定の基準に基づき定期に昇給を判定する仕組み

「実技試験」や「人事評価」などの結果に基づき昇給する仕組みであること。

ただし、客観的な評価基準や昇給条件が明文化されていることを要する。

2. 1の内容について、就業規則などの明確な根拠規定を書面で整備し、全ての介護職員に周知していること。

※「経験に応じて昇給する仕組み」とは、勤続年数や経験年数などに応じて昇給する仕組みのことを指します。

※「資格などに応じて昇給する仕組み」とは、介護福祉士や実務者研修修了者などの取得に応じて昇給する仕組みのことを指します。

ただし、介護福祉士資格などを既に取得して就業している職員についても昇給が図られる仕組みであることが必要です。

※「一定の基準に基づき定期に昇給を判定する仕組み」とは、実技試験や人事評価などの結果に基づいて昇給する仕組みのことを指します。ただし、客観的な評価基準や昇給条件が明文化されていることが必要です。

<職場環境等要件の対応>

職場環境等要件を満たすためには、賃金改善以外の処遇改善(職場環境の改善など)の取り組み、具体的には次の表(令和2年3月5日付け老発0305第6号厚生労働省老健局長通知 別紙1表4)の

「資質の向上」「職場環境・処遇の改善」「その他」の分類のうち、どれか1つ(以上)を実施して、

すべての介護職員に周知しなければなりません。

※キャリアパス要件ⅠからⅢを満たすために実施する取り組みと重複してはいけないことになっているため、

例えば、キャリアパス要件IIを満たすために資格取得支援を実施する場合には、この職場環境等要件を満たすための取り組みとしては、資格取得支援以外の取り組みでなければなりません。

※加算Iと加算IIについては、平成 27 年4月以降に実施している取り組みでなければなりません。

※平成27年3月以前に実施している取り組みと同じ名称の取り組みを実施する場合には、内容を変える必要があります。

別紙1表4

介護事業所の労務問題
介護事業所の労務問題