24時間・365日体制の訪問介護事業所における労務管理
24時間・365日体制の訪問介護事業所の労務管理の注意点は、変型労働時間制・待期時間・移動時間オンコール制度などがあります。
Q. 私は長年携わってきたホームヘルパーの経験を活かして、24時間・365日体制の訪問介護事業所を立ち上げる予定です。立ち上げの手続きの準備は地道に進めているのですが、私自身あまり理解できていない常勤、非常勤を含めた職員の労務管理については、どのような点に注意すればよいのか教えてください。
A.
長年、介護の業界で活躍されてきたとのことですので、訪問介護事業所の職員がどのように働くのかについては熟知されていると思います。
24時間・365日体制の訪問介護事業所における労務管理として、まずはとかくグレーになりがちな職員の労働時間を、タイムカード(できれば職員のスマートフォンから打刻できクラウド上で管理できるもの)やその他の方法で正確に把握できる体制を整える必要があります。
そもそも労働者の労働時間を把握することは、労働安全衛生法という法律で事業者の義務とされています。
これを行うことで、職員の健康を管理することにもつながります(例えば、長時間の勤務が続かないようにシフトを調整するなど)。
適切に、残業代やその他の手当を支払うえでも、重要なポイントになります。
加えて言えば、利用者宅への移動時間やオンコール勤務における待機中の時間が、労働時間になるのか否かなどについても理解しておく必要があります。
以下では、上記で挙げた事項について、より詳しく説明しています。
さらに詳しく…
1か月単位の変形労働時間制の導入
労働基準法では、労働者に休憩を除き1日8時間、1週40時間(職員が10人未満の訪問介護事業所や病院、診療所などは特例として44時間)を超えて労働させてはならない。また、休日(法定休日)は週1日以上(原則)または4週中に4日以上(変形休日)与えなければならないことになっています。
ただし、24時間・365日体制の訪問介護事業所だけではありませんが、シフトを組んで業務を回す現場では、上記の法定労働時間を基準とするのではなく、一般的に1か月単位の変形労働時間制と、休日については4週中に4日以上与える変形休日制を導入しています。
その理由は、事務処理専門の職員を除く職員(ホームヘルパー)の労働時間は、利用者の都合によって1日8時間を超えることは日常茶飯事でしょうから、残業代の支払いを抑えるため、また、シフトも組みやすくするためです。
なぜ、この1か月単位の変形労働時間制を導入すると、残業代の支払いを抑えられるのかというと、この制度では、1か月以内の期間を平均して、1週間当たりの労働時間が40時間(職員が10人未満の場合は44時間)以内になるように、シフトで労働日および労働日ごとの労働時間を設定すれば、労働時間が特定の日に8時間を超えたり、特定の週に40時間(職員が10人未満の場合は44時間)を超えたりしても、残業代を支払う必要がなくなるからです。
変形労働時間制にはそのほかに1年単位の変形労働時間制というものもあります。
こちらは1日10時間、1週52時間という労働時間の上限があることや、週1回は休日を与えなければならないこと、また、上記で説明した職員が10人未満の場合に、1週間当たりの労働時間が44時間になる特例も認められていません。
この点を考えると、やはり、1か月単位の変形労働時間制を導入した方が運用しやすいと言えるでしょう。
なお、新たに事業所を立ち上げるということなので、職員が10人以上の場合は、就業規則を作成して所轄の労働基準監督署に届け出なければなりません。
同時に、上記の1か月単位の変形労働時間制を導入するためには、この制度を適用する従業員の範囲や、その他一定の事項を、労使協定または就業規則で定め、かつ、時間外労働・休日労働に関する協定(いわゆる36協定)を合わせて、所轄の労働基準監督署に届け出る必要があります。
移動時間などの考え方
ホームヘルパーの労働時間の考え方については、厚生労働省の「訪問介護労働者の法定労働条件の確保のために」(平成16年8月27日付け基発第0827001号)という通達で示されてます。
その中で移動時間や労働時間については次のように示されています。
- 自宅から利用者宅へ直行する時間、また、利用者宅から自宅へ直帰する時間は労働時間ではなく通勤時間である。
- 直行の場合の業務開始時間は、利用者宅でサービスの提供を開始した時間であり、直帰の場合の業務終了時間は、最後の利用者宅でサービスの提供を終了した時間である。
- 利用者宅から事業場(事業所)へ移動している時間、また、利用者宅から次の利用者宅へ移動している時間は労働時間である。ただし、その移動の前後に労働者が自由に利用できる空き時間(※)がある場合にはその時間は労働時間とする必要はない。
※3つめのポイントの「空き時間」というのが少し分かりづらいと思いますが、例えば、Aさん宅で介護サービスを行ったあと、次にBさん宅に移動して到着したものの、Bさん宅での介護サービス開始までには少し時間があり、そのような時間は事業所として自由に過ごしてよいとしている場合の時間を指します。つまり、このような「空き時間」は休憩と同様に扱って構わないということです。
時間外・深夜・休日労働の割増賃金の支払い
上記で説明した1か月単位の変形労働時間制を導入したとしても、残業代の支払いがゼロになるわけではありません。
これについては少し複雑なため、詳細な説明は省略しますが、例えば、シフトで8時間を超える労働時間を設定している日に、その時間を超えて働かせると、その超えた時間分が時間外労働となり、残業代を支払わなければなりません。
また、同じく1か月単位の変形労働時間制を導入したとしても、22時から翌日5時までに労働させた場合(つまり夜勤者が該当)には、基本的な労働時間制と同様に、通常の賃金の25%以上の割増賃金の支払いが必要になります。また、休日(法定休日)に労働させた場合には、通常の賃金の35%以上の割増賃金の支払いが必要になりますので注意してください。
オンコール勤務における待機時間の考え方
オンコール勤務とは、ある利用者に緊急対応が必要になったような場合のために、担当職員を自宅などで待機させている状態のことを言います。
このオンコール勤務における待機中の時間が、労働時間になるのか否かについては、裁判でも待機中に課している義務などにより個別に判断されています。
基本的には、待機中の時間は労働時間ではなく、その担当職員が、実際に電話連絡を受けて利用者宅に向かい、利用者宅で介護サービスを提供した時間は、労働時間になると考えておけばよいでしょう。
なお、このオンコール勤務の担当職員に電話連絡(呼び出し)をすることがなかったとしても、その職員にはオンコール手当として、2、3千円程度を支給することが一般的です。 もし、電話連絡をして利用者宅に向かってもらい介護サービスを行ってもらえば、その時間は時間外の労働時間になりますので、オンコール手当に加えて、その労働時間分の割増賃金の支払いが必要になります。(この割増賃金よりも多めに設定した緊急訪問手当などとして支給しているところもあります。)
専門家からのひとこと
今はどの業界でもそうですが、特に医療や介護の現場では恒常的に働き手が不足しており、今後、さらに少子高齢化が進むとよりハードな現場になっていくことが予想されます。
政府の方でも介護職員処遇改善加算などにより賃金の引上げに力を入れてはいますが、まだまだ足りていないというのが実情でしょう。
事業所の管理者からは、日々の業務を処理するだけで手一杯という声も聞こえてきますが、適正な労働時間の管理を行ったうえで、支払うべき残業代や各種手当はきちんと支払いましょう。そのほか少しでも安心して働いてもらえるように職場環境の改善を図っていかなければなりません。
少しでも安心して働いてもらえるように職場環境の改善を図っていかなければせっかく採用した職員はすぐに辞めていく可能性が高いので注意してください。
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