採用者の標準報酬月額(報酬月額)の対象となる報酬とは?
入社時の社会保険料の取り方にはルールがあります。基本的には、基本給・すべての手当を入れるべきです。忘れがちになるのは、非課税通勤費・残業代見込み・処遇改善加算などがあります。
Q. 採用者の標準報酬月額は、年金事務所へ届け出る「被保険者資格取得届」に記載した報酬月額に基づいて決定されるものと認識しています。弊社では従業員のモチベーション向上のため、10月からいくつか新たな手当を導入するのですが、そのタイミングで採用する者がおります。あらためて、どのような手当などを報酬月額に含めなければならないのかについて教えてください。
A. ご認識のとおり、採用者の標準報酬月額は管轄の年金事務所や事務センター(以下、「日本年金機構」)(※)へ届け出る「健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届」(以下、「被保険者資格取得届」)によって日本年金機構が決定します。
具体的には、「被保険者資格取得届」で申告のあった報酬月額を健康保険法第40条第1項、厚生年金保険法第20条第1項で定められている標準報酬月額表にあてはめて標準報酬月額を決定します。(例えば、標準報酬月額表では、報酬月額が29万円~31万円であれば、標準報酬月額は30万円になるとされています。)
※会社に健康保険組合がある場合にはその健康保険組合へ届け出ます。
以下では、標準報酬月額を決定するもとになる、報酬月額に含まれるものと含まれないものについて、また、報酬月額に含まれるもので理解しておくべきことなどについて説明しています。
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報酬月額に含まれるもの、含まれないもの
報酬月額に含まれるもの、含まれないものについては、次のように整理されています。
(日本年金機構の「算定基礎届の記入・提出ガイドブック」における整理)
金銭で支給するもの | 現物で支給するもの | |
---|---|---|
報酬月額に含まれるもの | 基本給(月給・週給・日給等)、能率給、奨励給、役付手当、職階手当、特別勤務手当、勤務地手当、物価手当、日直手当、宿直手当、家族手当、扶養手当、休職手当、通勤手当、住宅手当、別居手当、早出残業手当、継続支給する見舞金、年4 回以上の賞与(※) 等 | 通勤定期券、回数券、食事、食券、社宅、寮、被服(勤務服でないもの)、自社製品 等 |
報酬月額に含まれないもの | 大入袋、見舞金、解雇予告手当、退職手当、出張旅費、交際費、慶弔費、傷病手当金、労災保険の休業補償給付、年3回以下の賞与(※) 等 | 制服、作業着(業務に要するもの)、見舞品、食事(本人の負担額が、厚生労働大臣が定める価額により算定した額の2/3以上の場合) 等 |
※ 年4回以上支給する賞与は報酬月額に含め、年3回以下で支給する賞与は報酬月額には含めず、別に届け出る賞与額の対象になります。
上記の表では色々と列記されていますが、要するに、金銭で支給するものなのか現物で支給するものなのかを問わず、労働の対価として支給するもの(基本給や残業手当など)、また、社内規程に基づいて定期的に支給するもの(住宅手当や家族手当、通勤定期券など)はすべて報酬になると考え、逆に報酬にならないものにはどのようなものがあるのかを理解しておけばよいでしょう。
報酬月額に含まれるもので理解しておくべきこと
報酬月額に含まれるものの中で理解しておくべきことをいくつか挙げて説明します。
通期手当・通勤定期券
通勤手当や通勤定期券については、所得税法施行令第20条の2において一定の額までは非課税となる額(非課税限度額)が定められています。 例えば、電車やバスなどの公共交通機関を利用して通勤する場合の非課税限度額は1か月あたり15万円と定められており、車やバイク、自転車で通勤する場合には、片道の距離に応じて非課税限度額が定められています。
このため、多くの従業員の通勤手当や通勤定期券は非課税になっていることもあり、まれに非課税なのであれば、社会保険料の計算のもとになる標準報酬月額(報酬月額)には含めなくてもよいのでは?と考えている方もおられます。結論から言えば、この非課税、課税はあくまで所得税の話であって、このことに関係なく報酬月額にはその全額を含めなければなりません。
ちなみに、通勤手当として例えば、6か月分の通勤定期代を支給する場合、また、6か月分の通勤定期券として支給する場合には、その額を6で割った額を報酬月額に含めます。(円未満の端数は原則切り捨て)
残業代の見込み額
標準報酬月額が決定、改定されるタイミングは、新たに従業員を採用したときだけでなく、毎年7月の定時決定や従業員の給与が大幅に増減したときの随時改定などもありますが、「被保険者資格取得届」に記載する報酬月額には残業代の見込み額も含めることになっています。
あまり知られていないかもしれませんが、このことについては、健康保険法第42条第1項と厚生年金保険法第22条第1項が根拠になっているのですが、厳密に言えば、これらの条文に残業代の見込み額を報酬月額に含めること、また、その計算方法については明確に規定されているわけではありません。しかしながら、実態に即した標準報酬月額を決定すべきというこれら条文の趣旨を勘案し、被保険者資格取得時の報酬月額には残業代の見込み額も含めるという取り扱いになっています。
この残業代の見込み額は、一般的に、該当者を採用した月の前月に、同様の業務に従事し、かつ、同様の賃金を支給する従業員(つまり、同様の雇用形態である従業員)に支給した残業代の額を平均した額とすることになっています。
その他
その他として、最後に介護関係の事業所の処遇改善手当について取り上げますが、一定の要件を満たす介護関係の事業所には介護職員処遇改善加算という制度が適用され、その事業所には処遇改善手当が支給されます。
この手当は職員に還元することになりますが、どのように支払うのかについては事業所の判断に任されています。このため、処遇改善手当などとして毎月の給与に含めて支給している事業所もあれば、賞与に上乗せして支給している事業所もあります。仮に、前者のように毎月の給与に含めて支給している場合には、当然に報酬月額に含めなければなりません。
専門家からのひとこと
今回は新たに採用した者の標準報酬月額を決定するにあたって、報酬月額には何を含めなければならないのかなどについて説明しましたが、この整理については、7月の定時決定や随時改定においても同様です。
見落としがちになるのは、「非課税通勤費」「残業代見込み額」「毎月支給される処遇改善加算」などがあります。調査のときに、さかのぼっての徴収がないように、注意が必要です。
標準報酬月額は、従業員にとって社会保険料を計算する際の基準額になるものであり、かつ、将来受け取る年金額の計算にも用いられます。過不足がないように、担当者としては何が報酬になるのかについては十分に理解しておいていただきますと幸いです。
「非課税通勤費」「残業代見込み額」「毎月支給される処遇改善加算」など見落としに注意してください。
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