中小事業主等が労災保険に特別加入するメリット・デメリット

2023年10月31日

悩む男性

Q. 私は従業員が30名程度の建設会社の事業主なのですが、小さな会社であるため、事業主としての業務がない限りは、従業員と同様に現場で作業を行っています。事業主という立場上、業務中にケガをしても労災保険は適用されませんので、現在の状況を考えて労災保険に特別加入しようと思っています。この特別加入の要件や申請手続き、また、メリット・デメリットなどについて教えてください。

A. ご認識のとおり、労災保険は原則として事業主に雇用されている労働者を対象としているものであるため、労働者に該当しない事業主などは対象とされません。


ただし、労災保険は本来的にはその対象外となる者でも一定の要件を満たすことで、特別に加入できるようになっています。この特別加入の対象となる者として大きく分けると、次の4種類があり、それぞれで加入要件や補償内容も異なります。

  1. 中小事業主およびその事業に従事する労働者以外の者(以下、「中小事業主等」)
  2. 一人親方やその他の自営業者およびその者が行う事業に従事する労働者以外の者
  3. 特定作業従事者
  4. 海外派遣者

上記の中で今回は、ご質問の特別加入に該当する、1の中小事業主等が、労災保険に特別加入するための要件や申請手続き、また、特別加入することによるメリット・デメリットなどについて説明します。


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さらに詳しく…

労災保険に特別加入できる中小事業主等とは?

労災保険に特別加入できる中小事業主等とは、次の1と2に該当する者を言います。

労災保険に特別加入できる中小事業主等

  1. 下記の表に記載のある業種ごとの労働者数を常時使用する(※)事業主(事業主が法人その他の団体であるときはその代表者)
  2. 労働者以外で上記1の事業主の事業に従事する者(事業主の家族従事者や中小事業主が 法人その他の団体である場合の代表者以外の役員など)

※労働者を常時使用しない場合であっても、1年間に100日以上労働者を使用している場合には、常時労働者を使用しているものとして取り扱われます。

中小事業主等と認められる企業規模

業種労働者数
金融業、保険業、不動産業、小売業50人以下
卸売業、サービス業100人以下
上記以外の業種300人以下

なお、中小事業主本人のほか、労働者に該当しない家族従事者や役員などがいる場合(つまり、上記1と2に該当する者がいる場合)には、その全員を包括して特別加入しなければならないことになっています。

尚、労働者を常時雇用しておらず(年間延べ100日未満)、かつ特定の業種に該当する方が加入を希望する場合は、「一人親方労災特別加入」として、手続きを行う必要があります。

当事務所では、事務組合・人財マネジメント協会を併設して、中小企業の経営者・役員様の特別加入を受け入れています

労災保険に特別加入するための要件・申請手続き

中小事業主等が労災保険に特別加入するためには、次の2つの要件を満たさなければなりません。

労災保険に特別加入するための要件

  1. 雇用する労働者については保険関係が成立していること。
  2. 労働保険の事務処理を労働保険事務組合に委託していること。

1の要件をわかりやすく説明すると、労働者を1人でも雇用すれば、労災保険と雇用保険の適用事業所になりますのでその手続きを行っていることという意味です。
また、2の労働保険事務組合とは、事業主の委託を受けて、事業主が行うべき労働保険の事務を処理することについて厚生労働大臣の認可を受けた中小事業主等の団体の事を言います。

労災保険に特別加入するための申請手続き

中小事業主等が労災保険に特別加入するためには、2の要件があるため、労働保険の事務処理を労働保険事務組合に委託していない場合には、まず、労働保険事務組合を探して事務処理を委託しなければなりません。
そして、特別加入の申請手続きとしては、中小事業主等が「特別加入申請書」を作成して労働保険事務組合に提出し、その労働保険事務組合が労働基準監督署(→労働局)に提出して労働局の承認を受ける流れになります。

労災保険に特別加入するメリット

中小事業主等が労災保険に特別加入するメリットは次のとおりです。

従業員と同様の補償を受けられる

当然ですが、労災保険に特別加入することで、中小事業主等も従業員とほぼ同様の補償を受けることができるようになります。(要件など少し異なる部分はあります。)

ちなみに、中小事業主等が労災保険に特別加入せず、業務中にケガをした場合には、業務外でのケガや病気に対応している健康保険を使うことはできません。このため、その治療費などは全額自己負担になりますので注意してください。

給付基礎日額を自分で設定できる

労災保険の各種給付額は、給付基礎日額というものを基準に計算されます。従業員の給付基礎日額は災害が発生した日の直前3か月間に支払われた賃金の総額をその期間の歴日数で割った額になりますが、特別加入する中小事業主等の給付基礎日額は、その者自身が3,500円〜25,000円の範囲で設定できるようになっています。

このことにどのようなメリットがあるのかというと、例えば、ケガなどをするリスクが高い状況であれば、保険料は高くなるものの給付基礎日額を高く設定して補償を手厚くすることもできますし、民間の災害補償保険に加入している場合に病院での治療だけ無料で受けられればよい(治療は給付基礎日額とは関係なく無料で受けられる)と考えて給付基礎日額を低く設定することもできることなどが挙げられます。

労災保険に特別加入するデメリット

中小事業主等が労災保険に特別加入するデメリットは次のとおりです。

労働保険事務組合の事務委託料が発生する

上記で説明したとおり、中小事業主等が労災保険に特別加入するためには労働保険事務組合に労働保険の事務処理を委託しなければなりませんので、現状、委託していない場合には委託にかかる費用が追加で発生することになります。(委託料は労働保険事務組合ごとに異なります。)

ただし、労働保険の事務処理を委託することで自社の事務処理の負担が軽減されることを考えれば、会社の事務処理の状況にもよりますが、委託料が発生する=デメリットではないかもしれません。

業務災害の認定がされない可能性もある

中小事業主等の業務中の災害が業務災害と認定されるためには、基本的には「特別加入申請書」に記載した業務を従業員と同様の立場で所定労働時間内に行っているとき、あるいは、同様の業務、同様の立場で従業員が残業しているときや休日出勤しているときなどに発生した災害である必要があります。

中小事業主等の場合、所定労働時間内や時間外、休日に従業員と一緒に業務を行うこともあれば、従業員がいない時間帯に1人で従業員とは異なる業務を行うことがあるかもしれません。後者に該当する場合には、原則として業務災害として認定されないため、このことはよく認識しておく必要があります。なお、通勤災害については従業員との扱いに差はありません。

上記の理由から、労災保険に特別加入しつつ、民間の災害補償保険にも加入している中小事業主等も少なくありません。


専門家からのひとこと

上記では、中小事業主等が労災保険に特別加入するメリットに加えてデメリットについても説明しましたが、トータルで考えてもメリットの方が大きいと言えます。

「中小事業主等が労災保険に特別加入」は、少額の費用で、大きな安心を、買うことができます。

中小事業主等が日常的に従業員と業務を行っている場合はもちろん、週に何回かでも現場に赴くような状況であれば、特別加入しておいた方がよいでしょう。

所長解説

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