就業規則の基礎知識

2021年5月17日

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助成金と就業規則

企業が申請しやすい助成金と言えば、厚生労働省の雇用関係助成金(キャリアアップ助成金など)が挙げられますが、この助成金に申請するためには、原則として就業規則や労働協約(労働組合・使用者間の労働条件などに関する取り決め)などが必要になります。

例えば、キャリアアップ助成金の正社員化コースで助成金を受給するためには、有期契約の従業員を正社員に転換する制度を就業規則などに規定したうえで、有期契約の従業員を正社員に転換させなければなりません。助成対象となる制度について、まずは就業規則などに規定(会社上の制度にする)しなければならないということです。

助成金の申請においては、就業規則の作成義務がない10人未満の事業場でも就業規則あるいはそれに代わる労働協約などが必要になりますので注意が必要です。

服務規律とハラスメント対策義務化と就業規則

服務規律は、就業規則に必ず記載しなければならない事項(絶対的必要記載事項)ではありませんが、社員として「このように働いて欲しい」、「このようなことは絶対行ってはいけない」という会社からのメッセージを発信するためにも非常に重要な規定です。

このため、先に説明したひな形を利用して就業規則を作成する場合でも、服務規律については必ず自社にあったものを考えて規定すべきと言えます。

一方で、昨今問題になっている、パワーハラスメントやセクシャルハラスメントなどの各種ハラスメント関係、また、営業秘密や個人情報の漏えいなどに関しては、場合によっては会社側も責任を問われる可能性もあることから、必ず禁止規定を設けておくべきです。
また、これらの禁止規定の違反については、次で説明する懲戒の事由としておくことも必要です。

懲戒規定と就業規則

懲戒規定は、就業規則上の相対的必要記載事項(制度を設ける場合には記載しなければならない事項)に当たりますので、必ず記載しなければなりません。
懲戒規定は、一般的に懲戒の種類と懲戒の事由の2つからなります。

懲戒の種類

懲戒の種類は、軽いものから、口頭での注意である「訓告」、始末書を提出させる「けん責」、「減給」、「出勤停止」、「降格」、「懲戒解雇」などがありますが、自社で導入する種類について記載します。
なお、「諭旨退職(解雇)」を懲戒の1つに含めている会社も散見されますが、これについては「懲戒解雇」とせず、本人に非を認めさせて退職させることであるため、厳密には懲戒ではないと言えます。

懲戒の事由

従業員がどのようなことを行えば、上記の懲戒に該当するのかを記載します。
例えば、「正当な理由なくしばしば欠勤、遅刻、早退したとき」は「けん責」としたり、「故意又は重大な過失により会社に重大な損害を与えたとき」は「懲戒解雇」とすることなどを記載します。

なお、実際に懲戒処分を行うに当たっては、その懲戒の種類と懲戒の事由のバランスを慎重に判断しなければなりません。
労働契約法第15条では、「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は無効とする。」とされています。懲戒処分はこのことを踏まえて決定しなければなりませんし、特に「懲戒解雇」については、その従業員に大きな問題があったとしても慎重な判断が求められます。

民法・刑法と就業規則

就業規則を作成するためには、労働基準法や労働契約法などの労働関係法だけでなく、民法や刑法についても一定の理解が求められます。
それは、民法その他の法律は、原則として会社で定める就業規則に優先するからであり、従業員が不祥事を起こした場合には、懲戒規定にかかわらず、刑法によって罰せられることがあるからです。
就業規則の規定に民法や刑法がかかわってくることとしては、例えば、次のようなことが挙げられます。

退職の申し出について

就業規則には、従業員の退職の申し出について、「1か月前に申し出なければならない。」などと規定していることがあります。
期間の定めのない雇用契約の終了について、民法627条第1項では、「各当事者はいつでも解約の申入れをすることができ、雇用は解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する。」と規定されています。民法上の整理では、退職の申し出について1か月前などの制限はないということです。

この民法の規定を任意法規(当事者がその規定の内容と異なる意思を表示した場合には、その適用が排除されうる規定)と解して、1か月前に申し出なければならないとする就業規則の規定も許されるという見解もありますが、基本的には一般法である民法が適用されるものと理解しておくべきです。

営業秘密の漏洩について

業務上重要な会社情報の漏えいについては、一般的に、就業規則(別規程を含む)で禁止規定を設けるとともに懲戒の事由とし、あわせて、入社時に秘密保持誓約書を提出させるなどによってその抑止を図ります。
ただし、実際に従業員による情報の漏洩があった場合、その従業員を懲戒処分とするだけでなく、損害の程度によっては、債務不履行または不法行為に基づく損害賠償請求(民法第415条・709条)を行うこともあります。

該当従業員については、漏洩した情報が不正競争防止法第2条第6項の「営業秘密」(秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの)に該当する場合には、営業秘密侵害罪(不正競争防止法第21条第1項1号~9号)に問われますし、「情報(データ)」そのものではなく、「財物」と認められれば、刑法上の窃盗罪(刑法第235条)や業務上横領罪(刑法第253条)の適用も考えられます。
なお、退職者が営業秘密を持ち出して、再就職先で持ち出した情報を活用した場合には、本人のほか再就職先の会社も処罰の対象(不正競争防止法第22条第2項等)になりますので、転職者の採用についても注意が必要になります。

パワーハラスメントやセクシュアルハラスメントの禁止について

パワーハラスメントやセクシュアルハラスメントについては、一般的に、就業規則(服務規律)の中で禁止条項を設けるとともに懲戒の事由とし、あわせて、社内に相談窓口を設けるなどでその抑止を図ります。

※パワーハラスメントの相談窓口については、大企業は2020年6月から、中小企業は2022年4月から設置が義務化されますが、セクシャルハラスメントや妊娠、出産、育児休業などに関するハラスメントについても一元的に相談に応じる窓口にすることが望ましいとされています。
ただし、実際にパワーハラスメントやセクシャルハラスメントが起こった場合には、加害者である従業員にとっては懲戒処分だけでなく、刑事上の責任として、強制わいせつ罪(刑法第176条)や傷害罪(刑法第204条)、暴行罪(刑法第208条)、名誉毀損罪(刑法第230条)等)に問われますし、民事上の責任として、不法行為による損害賠償(民法第709条)責任も負うことになります。
また、罪を問われるのは必ずしも加害者である従業員だけではありません。相談窓口の担当者や経営者がセクシュアルハラスメントやパワーハラスメントが発生しているにもかかわらず、適切な対応・対策を講じなかった場合には、会社側も責任を問われますので注意が必要です。