就業規則の基礎知識

2023年9月1日

就業規則の作成・変更の流れ

就業規則の作成・変更自体は必要な事項さえ網羅していれば、あとは自社の方針により進めればよいですが、それだけでは有効な就業規則にはなりません。
作成・変更した就業規則を有効なものとするためには、次のような手順を踏まなければなりません。

作成・変更方針の決定

就業規則は一度作成・変更すれば、それが会社のルールとなり、従業員の労働条件となります。新規作成、変更のいずれの場合もその方針の決定には十分に時間をかける必要があります。
特に、新規で作成する場合には、経営理念や社風などをどのように取り入れるのかなども重要ですし、正社員以外に契約社員やパートタイムなどもいるのであれば、雇用形態別に労働条件を整理したうえで、先に説明した「絶対的必要記載事項」と「相対的必要記載事項」に落とし込んでいかなければなりません。

就業規則(案)の作成

就業規則の作成・変更方針が決定すれば、就業規則の案を作成します。
新規の作成で、正社員以外に契約社員やパートタイムなどもいる場合には、手間はかかりますが、雇用形態別に作成することをお勧めします。これは正社員の就業規則と一緒にすると、かなり複雑になりトラブルのもとになるためです。

従業員側の意見の聴取

就業規則の作成・変更について、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合は、上記で説明した労働者代表に意見を聴かなければなりません。(具体的には「意見書」を書いてもらうことになります。)
また、契約社員やパートタイムを対象とした就業規則を個別に作成した場合、また、その作成したものを変更する場合には、義務ではありませんが、契約社員またはパートタイムの過半数を代表すると認められる者の意見を聴くように努めなければなりません。(短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律第7条第1項、第2項)

所轄の労働基準監督署へ届出

作成・変更した就業規則は、労働組合または労働者代表の「意見書」を添付して、管轄の労働基準監督署に届け出なければなりません。

従業員への周知

作成・変更した就業規則は、従業員に周知することで、その内容が有効なものになります。
周知の方法は、労働基準法第106条第1項および労働基準法施行規則第52条の2において、次のように定められています。

  1. 常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること
  2. 書面を労働者に交付すること
  3. 磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること

一般的な会社ではウが最も現実的と言えます。言い回しが古いですが、イメージ的には社内の共有フォルダなどに就業規則のデータを置いて、従業員のパソコンからアクセスできるようにすることです。

就業規則の不利益変更の留意点

企業経営を進めていくうえでは、業績の悪化などにより、賃金の引き下げなど従業員にとって不利益になる労働条件の変更を検討しなければならない場面も出てきます。
就業規則による労働契約の内容の変更については、労働契約法第9条および第10条において次のように規定されています。

(1)労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない

(2)ただし、変更後の就業規則を労働者に周知し、その変更が合理的である場合には、就業規則の変更によって労働条件を変更することができる

就業規則の変更に合理性があるかどうかは下記に照らして判断されます。

  1. 労働者の受ける不利益の程度
  2. 労働条件の変更の必要性
  3. 変更後の就業規則の内容の相当性
  4. 労働組合等との交渉の状況
  5. その他の就業規則の変更に係る事情

まとめると、従業員にとって不利益になる就業規則の変更は原則としてはできませんが、変更後の就業規則を従業員に周知し、かつ、その変更に合理性が認められれば、その変更は有効とされる可能性もあるということです。
ただし、合理性があるかどうかは、上記(2)のア~オの状況で判断されることを考えると、決してハードルは低くないと言えますし、実際にその合理性が否定された判例も数多くあります。(みちのく銀行事件・最高裁平成12年9月7日第一小法廷判決など)

このため、例えば、業績が悪化していることを理由に従業員の賃金を引き下げようとしているのであれば、倒産寸前でない限りは、まずは役員報酬やその他の経費を削減するなどの努力をしたうえで、従業員側との話し合いを重ねて合意に持っていく方がよいと言えます。

就業規則の活用方法

中小企業の多くは、一度、就業規則を作成すれば、あとは法改正対応だけに終始する傾向にあります。ただし、それだけではせっかく作成した就業規則を活かしきれているとは言えません。
就業規則は会社のルールブックであるとともに、会社と従業員が一体感を持って働いていくためのものでもあります。うまく活用することで、従業員の定着や業務効率化、生産性の向上にもつなげることができます。

周知を徹底する

就業規則は従業員に周知しなければならないものですが、これを徹底できていない企業が少なくありません。就業規則をより有効なものとするためには、就業規則にどのようなことが書かれているのかを従業員によく認識させる必要があります。
そのためには、先に説明したとおり、パソコンなどからいつでも就業規則を閲覧できるようにしておくことも必要ですし、改正のタイミングには説明会などを開催することも求められます。
職場のルールを周知、徹底することで、従業員にとっても納得のいく職場環境になりますし、ひいては生産性の向上や職場定着にもつながります。

定期的に見直す

就業規則は労働関係法の改正に合わせて変更しなければならないことは当然ですが、業務の実態に合わせて定期的に見直していくことも必要です。
例えば、業務の実態を考えれば、新たな労働時間制度(フレックスタイム制や裁量労働制など)や人事評価制度を導入した方が業務効率化や生産性の向上が見込まれる場合もあります。
法改正はなくても、定期的に従業員や業務の状況などを確認し、就業規則の見直しについて検討すべきです。

経営理念を反映させる

就業規則の前文として、経営理念や経営方針を記載することは、従業員に会社としての方向性を示すうえでも有効です。また、会社によってはその経営理念に従って各種制度について法定以上のものとすることで従業員のモチベーションを上げているところもあります。
会社がどの方向に向かっているのかを従業員と共有することで、一体感を持った業務進行につなげることができます。

まとめ

就業規則は10人以上の従業員がいる場合に作成しなければならないものですが、企業として事業を継続、発展させていくことを考えれば、法律上の義務にかかわらず必要になってくるものです。
就業規則は会社のルールブックであるとともに、会社と従業員が一体感を持って働いていくためのものでもあります。うまく活用して、働きやすい職場環境をつくり、従業員の定着や業務効率化、生産性の向上にもつなげていきましょう。