民法改正による身元保証書の取り扱い変更について
Q. 民法の改正により、従業員を採用する時に提出してもらっている身元保証書には損害賠償の上限額を記載しないと、その身元保証書自体が無効になると聞きました。
- 弊社では現状、身元保証書にこの上限額を記載していないのですが、具体的にどれぐらいの額にすべきでしょうか?
- 既に提出してもらっている身元保証書はすべて取り直しをしないといけないのでしょうか?
A. 昨年2020年4月1日に施行された改正民法により、身元保証書には損害賠償の上限額(民法上は「極度額」と言います。)を定めておかなければ、その身元保証書自体が無効となるという取り扱いになりました。
身元保証書の損害賠償上限額と取り直しについて
損害賠償の上限額について
損害賠償の上限額(民法上は「極度額」と言います。)上限額は会社で自由に設定することができます。
この上限額は、会社の業種や採用する者が携わる職種や年収にもよるでしょうが、一般的には100万円から500万円程度としている会社が多いようです。
しかし、あまりに高額にすると、採用される者としては身元保証人を探すことが難しくなる(特に親族以外からも身元保証人を立てることを求めている場合)でしょうし、逆に、あまりに低額にすると、採用する者から将来的に損害を受けた場合に十分な補償を受けることができなくなります。
身元保証書の取り直しについて
損害賠償の上限額を定めていない身元保証書の取り直しについてですが、上限額を定めることについては、改正民法の施行日である2020年4月1日以降に採用した者から提出してもらっている身元保証書から適用されます。
2020年3月31日までに提出してもらっている身元保証書については取り直しをする必要はありませんが、2020年4月1日以降に採用した者から提出してもらっている身元保証書で上限額を定めていない場合、かつ、会社として身元保証書を法的に有効なものとすべきと判断するのであれば、取り直しが必要になります。
身元保証書の取り扱いについて
そもそも、この身元保証書を採用する者から提出させることは、民法やその他の法律で義務付けられているわけではありませんので、民法改正を機に会社としては次の対応をとることが考えられます。
- 改正民法のとおり、身元保証書に損害賠償の上限額を記載する。
- 身元保証書における損害賠償の記載をなくし、身元保証人には採用する者が会社の就業規則などの諸規則を守り、忠実に勤務できる人物であることを保証させるだけの書類にする。
- 身元保証書を提出させること自体をやめる。
この身元保証書をどのように考えるのかについては会社によって異なると思いますが、民法改正を機に、今後、どのように運用するのかについてあらためて検討してみてはいかがでしょうか?
身元保証書とは「身元保証契約」のこと
身元保証書は、単に緊急時の連絡先を確認するための書類ではなく、採用する者が将来的に会社に損害を与えた場合には身元保証人が採用する者と連帯してその損害を賠償することを身元保証人に約束させる「身元保証契約書」になります。
※民法では、一定範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約で、かつ、保証人が法人でない「個人根保証契約」に該当します。
「身元保証契約」の有効期限について
身元保証契約については、昭和8年に成立している「身元保証ニ関スル法律」という古い法律で有効期間が定められており、有効期間を定めない場合には成立の日から3年、有効期間を定める場合には最大5年とされています。また、自動更新の定めをすることは認められていませんので、上記の有効期間が経過した従業員の身元保証人に引き続き身元保証契約を適用するためには、あらためて身元保証書を提出してもらわなければなりません。
ただし、この短時間正社員制度を導入してもうまく機能しなければ、上記で説明したとおり、フルタイム正社員の負担が増えるだけのものになってしまう可能性があります。
制度の導入にあたっては、企業として短時間正社員制度を導入する目的や、短時間正社員に期待する役割、また、適用する労働条件などをあらかじめ明確にしておく必要がありますので注意してください。
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