社用車で事故を起こした従業員に対する求償について

2023年10月31日

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Q. 弊社では、社用車での事故については相手方に対する補償や車両の修理代などすべて会社が加入している任意保険で対応しており、事故を起こした従業員本人にはその損害額は請求していません。
そこで質問なのですが、法的にはその損害額を従業員に請求することもできるのでしょうか?

A. 民法第715条第3項では、「使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。」と規定されているため、事故を起こした従業員に対して賠償額を請求することも不可能ではありません。
ただし、過去の裁判では、基本的には会社側の責任をより重視し、賠償額の請求はまったく認められない、もしくは、賠償額の4分の1程度まで認めるなどと判断されているものがほとんどです。
このため、実際にその従業員に対して賠償額を請求することは難しいと言えるでしょう。

求償権の行使について

事故を起こした従業員の責任

従業員が業務中に社用車で事故を起こし、相手方にけがを負わせたり、車両を破損させたりした場合には、その従業員個人としては、道路交通法違反としての罰則を科されるとともに、相手方に対しては民法第709条の「不法行為による損害賠償」などの責任を負うことになります。

その従業員を雇用している会社側の責任

一方、業務中の事故である限りは、その従業員を雇用している会社側には、民法第715条の「使用者責任」と、自賠法(自動車損害賠償保障法)第3条の「運行供用者責任」が生じます。
相手方に対する賠償については、会社が加入している任意保険で対応することが一般的です。

求償権の行使

ただし、民法第715条第3項では、「使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。」と規定されているため、事故を起こした従業員に対して賠償額を請求することも不可能ではありません。

※「求償権の行使」とは、今回の社用車での事故のケースで言えば、会社側が事故の相手方に賠償した後、その従業員に賠償額を請求することを言います。


さらに詳しく…

求償権の行使に関して

従業員が業務中に社用車で事故を起こした場合、会社側には民法第715条の「使用者責任」と、自賠法(自動車損害賠償保障法)第3条の「運行供用者責任」が生じる一方で、会社側からその従業員に対して求償権を行使することも認められています。

ただし、この求償権の行使について争われた多くの裁判では、原則として会社側は従業員の活動によって利益を得ていることもあり、従業員に対して求償権を行使することについては信義則に反するとして否定的な判断が下されています。

「茨城石炭商事事件(最高裁第一小法廷・昭和51年7月8日判決)」

この裁判では

「使用者がその事業の執行につきなされた被用者の加害行為により、直接損害を被り又は使用者としての損害賠償責任を負担したことに基づき損害を被った場合には、使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し損害の賠償又は求償の請求をすることができるものと解すべきである。」という判断が下されています。

判決

この裁判では、従業員がタンクローリーを運転して事故を起こし、その損害を賠償した会社側が従業員に対して求償権を行使したことにより、その是非が問われました。結論としては、会社側が任意保険に加入していなかったこと、従業員の過失が重大でなかったこと、また、従業員の勤務成績が普通以上であったことなどが考慮されて、会社側から従業員への求償は4分の1に制限れました。

求償権の行使の制限

上記は最高裁判所の判決になりますが、下級審においても求償権の行使についは次のような事項に該当すれば、大幅に制限されている傾向にあります。

①従業員の過失が軽過失(前方不注意など)であった場合

②会社側が任意保険に加入していなかった場合

③事故を起こした従業員に支払っている賃金が低い場合

結論としては、会社側は従業員に賠償額を請求することを考えるよりも、事故の相手方に対する補償をしっかりとカバーできる任意保険に加入しておくこと、また、定期的に安全運転講習を行うなど事故防止対策を講じることなどが現実的な対応であると言えるでしょう。

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