その時間、給料になります!~知っておきたい、出退勤時間と勤務時間の境界線~

出退勤時間と勤務時間の違い – とある工務店の悩ましい朝
登場人物紹介
- 笹川社長(31歳):工務店三代目。アパレル・雑貨・飲食と新事業を次々展開するやり手でITにも強いが、神経質でストレスですぐお腹が痛くなる。
- 佐藤常務(58歳):先々代から笹川工務店を支える経理のエキスパート。大番頭的存在で笹川社長をかわいがっている昭和の人。
- 上岡ひとみ社労士:開業21年のベテラン。230社の顧問先を持つ。笹川工務店の新しい社労士として参画
現代の労働環境では、出退勤時間と実際の勤務時間の違いが、実に悩ましいです。特に建設業界では現場作業や移動時間の取り扱いが複雑で、多くの企業が頭を悩ませています。
月曜日の朝、とある工務店にて

笹川社長:
「佐藤常務、おはようございます!また胃が…うぅ。」



佐藤常務:
「社長、胃薬はいかがですか?何かございましたか?」



笹川社長:
「実は現場の職人さんから『着替え時間も給料に入れてほしい』って相談があって。IT化で勤怠管理はデジタル化したけど、こういう細かい部分で悩んでしまって…」



佐藤常務:
「ああ、それは昔からある話ですね。でも私の時代は、そんなこと考えもしませんでしたよ。」



上岡社労士:
(颯爽と登場)「おはようございます!その悩み、よくわかります。実は230社の顧問先でも同じような相談が増えているんです。」
その「着替え時間」の件、実は法律上とても重要な問題なんです
労働時間の定義は複雑で、単純に「働いている時間」だけではありません。準備時間や移動時間など、グレーゾーンとなる時間の取り扱いについて、企業は適切な判断と対応が求められています。



笹川社長:
「上岡先生!前の社労士さんでは対応が追いつかなくて、先生にお願いして正解でした。」



上岡社労士:
「ありがとうございます。その着替え時間の件、実は法律上とても重要な問題なんです。労働基準法では『使用者の指揮命令下に置かれている時間』が労働時間とされています。」



佐藤常務:
「え?着替えって、仕事じゃないでしょう?」



上岡社労士:
「そう思われがちですが違うんです。例えば、会社が『安全のため作業服を着用すること』と義務付けている場合、その着替え時間は労働時間に含まれる可能性が高いんです。」



「指揮命令下って、具体的にはどういうことですか?」



上岡社労士:
「『三菱重工長崎造船所事件』という有名な判例があります。造船所で働く従業員が作業服への着替えや準備時間も労働時間だと主張し、裁判所は『業務に必要な準備行為は労働時間に含まれる』と判断したんです。」



佐藤常務:
「うちの現場は確かに、ヘルメットや安全靴、作業服の着用を義務付けてますね…」



「ということは、みんなの着替え時間も給料に含めないといけないということですか?」



上岡社労士:
「人によって着替え時間は違いますから、実際の現場では「1回5分」や「1回10分」などの標準時間を設定して、給与に反映させる企業が多いんです。また、職場で着替えない方もおられるでしょうから、〇〇の作業があった場合、と限定するのもいいかもしれませんね。」
これも労働時間?よくある4つのグレーゾーン
現代の労働環境では、テクノロジーの発達により従来の労働時間の概念だけでは対応できない新しい課題が生まれています。企業は時代の変化に対応しつつ、法令遵守と従業員の権利保護を両立させる必要があります。



「他にも気になることが…10分前出勤についてはどうでしょう?」



「それも頭の痛い問題ですね。『始業10分前に来るように』と指導している企業は多いんですが、会社が暗に強制している場合、その時間も労働時間になる可能性があります。」



「私の時代は当たり前でしたけどねぇ。」



「重要なのは『強制かどうか』です。任意の心がけとして伝えるのは問題ありませんが、守らないと不利益があるようだと労働時間になってしまいます。」



「現場では移動時間の問題もありますよね?」



「そうなんです!直行直帰の場合、基本的には通勤時間扱いですが、移動中に会社から連絡があって対応しなければならない状況だと、労働時間になる可能性があるんです。」



「IT化で便利になった分、境界線が曖昧になってる気がします。」



「まさにその通りです。現代の働き方の変化に法律の解釈も対応していく必要があるんです。」



「タイムカードの時間と実際の労働時間がズレることもありますよね?」



「それもあります。裁判になった場合、会社側が別の証拠を出せなければ『タイムカードの時間=労働時間』と判断されてしまうんです。」



「仕事が終わっても、タバコ吸いながら同僚と話してる時間まで労働時間にされちゃう?」



「その通りです。だからこそ、実態に合った労働時間管理が重要なんです。職場のルールつくりも。」



「休憩時間中でも、お客さんから連絡があったら対応してもらってるんですが…」



「それは要注意ですね。「手待ち時間」といって、休憩中でも即座に対応しなければならない状況は、休憩時間として認められない可能性があります。」



「じゃあ、どうすればいいんでしょう?」



「まずは就業規則を見直して、労働時間の定義を明確にすることです。そして実態調査を行って、現場の状況を正確に把握することが大切です。」



「ITシステムを活用して、もっと正確な勤怠管理ができそうですね!」



「その通りです!技術を活用しつつ、法令遵守も徹底していきましょう。」
解決策は「職場のルールブック」
労働時間管理は複雑ですが、明確なルール作りと適切なシステム導入により、企業と従業員双方にとって良好な労働環境を築くことができます。



「具体的には、どんなルールを作ればいいんでしょうか?」



「実は、当事務所では『職場のルールブック』というものをご提案しているんです。」



「ルールブック?」



「はい。例えば『タイムカードは実際の業務開始・終了時に打刻する』『着替え時間は1回5分として計算』『移動中の業務指示対応は労働時間に含む』など、具体的なルールを明記したものです。」



「それがあれば、現場の職人さんたちにも説明しやすいですね!」



「そうなんです。230社の顧問先での経験を活かして、業種別・規模別にカスタマイズしたルールブックをご提供しています。トラブル予防にも効果的ですよ。」



「従業員さんにとっても、どこまでが労働時間なのか明確になって安心ですね。」



「ぜひお願いします!ITシステムと組み合わせれば、完璧な管理ができそうです。お腹の痛みも治まりました(笑)」



「ありがとうございます。詳しい資料をお持ちしますね。」



「時代は変わっても、働く人を大切にするという基本は変わらないんですね。」
上岡社労士からの重要なポイント
労働時間判断の基準
「使用者の指揮命令下にあるか」が最重要ポイントです。明示的な指示だけでなく、黙示的な強制も含まれます。
【よくある悩ましいケース】
- 着替え時間 → 安全・衛生上義務付けなら労働時間
- 10分前出勤 → 強制的な指導なら労働時間
- 移動時間 → 指示対応が必要なら労働時間
- 休憩中の待機 → 即座対応が必要なら労働時間
【企業が取るべき対応】
- 就業規則の明確化:労働時間の定義を具体的に規定
- 客観的記録管理: IT活用で正確な勤怠管理システム構築
- 従業員との対話:不明点は積極的にコミュニケーション
- 定期的見直し:働き方変化に対応した継続的改善
上岡ひとみ社労士事務所より
労働時間管理は複雑ですが、明確なルール作りと適切なシステム導入により、企業と従業員双方にとって良好な労働環境を築くことができます。当事務所の「職場のルールブック」で、あなたの会社も安心・安全な労務管理を実現しませんか?詳しくはお気軽にご相談ください。