従業員に対する損害賠償請求

2023年10月31日

損害賠償
損害賠償

Q.弊社の従業員が社用車を運転中、その従業員の不注意により前を走行していた車両に追突し、双方の車両を破損させてしまいました。(幸い、相手方と従業員にけがはありませんでした)
業務上の事故であるため、会社側にも使用者責任などがあるということは理解していますが、この従業員にはペナルティとして修理代の一部を負担させることを考えています。
双方の車両を修理するために必要な額のうち何割くらいの額を請求することが妥当でしょうか?

A. 従業員が社用車で事故を起こした場合には、一般的には社用車にかけている自動車保険で対応し、その従業員には就業規則に基づいて懲戒処分を行うことで終わらせる会社が多いと思います。もし、修理に必要な額の一部を負担させるとすれば、判例では、会社が請求できる額は、軽過失である場合には、損害額の2割から3割程度とされているケースが多く、状況によっては損害賠償の請求自体が認められないこともあります。

業務上の交通事故に対する損害賠償について

過失の程度における損害額のケース

業務上の交通事故に限った話ではありませんが、従業員が業務上のミスによって会社に損害を与えたとしても、会社には使用者責任などがあるため、従業員に対して損害賠償を請求することについては一定の制限があります。

会社が請求できる額は、従業員の過失の程度によりケースが異なり、状況によっては損害賠償の請求自体が認められないこともあります。

  • 従業員の過失が重過失である場合 ⇒ 損害額の5割
  • 従業員の過失が軽過失である場合 ⇒ 損害額の2割から3割程度

※状況によっては損害賠償の請求自体が認められないこともあります。


債務不履行と損害賠償請求

民法上、従業員が業務上のミスにより会社に損害を与えた場合、それが労働契約に違反するものであれば、いわゆる「債務の不履行」にあたるため、会社側としては、民法第415条に基づく損害賠償請求を行うことは可能です。

判例によると、民法第715条の使用者責任を重視し、仮に労働者に過失があったとしても故意や重大な過失までは認められないケースでは、損害賠償請求や求償請求(従業員が第三者に損害を負わせた場合に会社がその損害を賠償し、その後、会社が賠償した額を該当従業員に請求すること)を行うこと自体が否定されるか、一定割合の損害賠償請求や求償請求のみ認められることが多いと言えます。

使用者責任と運行供用者責任について

運転していた従業員は当然ながら、被害者に対して損害賠償責任を負うことになりますが、業務中の事故である限り、事故を起こした従業員が全ての責任を負うのではなく、その従業員を雇用している会社側にも民法第715条の使用者責任に加えて、自動車損害賠償保障法第3条の運行供用者責任(事業のために自動車を運行させて利益を得る会社などが負う責任のこと)もありますので、従業員が起こした事故であっても会社としての責任も非常に重いものであることは理解しておく必要があります。

「労働基準法」における注意点について

労働基準法第16条では、「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。」(賠償予定の禁止)

労働基準法第17条では、「使用者は、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならない。」(前借金相殺の禁止)
※労働基準法第17条で禁止されているのは、あくまで前借金と賃金の相殺ですが、判例では、損害賠償金についても賃金との相殺を禁止する方向性が示されています。

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