「1週間単位の非定型的変形労働時間制」とは?

「1週間単位の非定型的変形労働時間制」とは?

飲食店・旅館・小売業の経営者が知っておくべき基本と注意点

「週末は満席なのに、平日は暇で人を持て余してしまう」
「天気や予約次第で、その日の混み具合がまったく読めない」

飲食店や旅館、小売店を経営されている方なら、こうした悩みは日常的ではないでしょうか。

固定シフトのまま運用していると、
繁忙日には残業が積み重なり、閑散日にはスタッフが手持ち無沙汰

この非効率が、人件費の増大と従業員の不満につながっていきます。
こうした業種のために設けられた制度が、「1週間単位の非定型的変形労働時間制」(労働基準法第32条の5)です。

目次

制度の概要——「非定型」という名前の意味

通常の変形労働時間制(1ヶ月単位・1年単位)は、あらかじめ各日・各週の労働時間を特定しておく必要があります。しかし飲食店や旅館のように、その日になってみないと繁閑が読めない業種では、月単位・年単位での労働時間の事前確定は現実的ではありません。

そこで認められているのが「非定型的」変形労働時間制です。
日ごとに著しく繁閑の差が生じる業種において、労使協定を締結することで、週40時間の枠内において1日最大10時間までの労働が認められています。

「非定型」とは、「定型的に決まらない=毎週その週に合わせて柔軟に決められる」という意味です。


対象となる業種と規模

この制度を利用できるのは、規模30人未満の小売業・旅館・料理店・飲食店に限定されています。

対象業種規模要件
小売業常時使用する労働者が30人未満
旅館同上
料理店同上
飲食店同上

製造業・建設業・サービス業全般は対象外です。
また規模要件はパートやアルバイトも含めてカウントするため、30人を超えた時点でこの制度は利用できなくなります。


導入のための3つの必須要件

① 労使協定の締結と労働基準監督署への届出

従業員の過半数代表者等と以下の内容を定めた労使協定を締結し、所轄の労働基準監督署長へ協定届(様式第5号)を届け出る必要があります。

  • 1週間の労働時間を40時間以内とすること
  • これを超えて労働させた場合には割増賃金を支払うこと
  • 変形労働時間をとる1週間の起算日とその期間

重要な注意点

前回のコラムで解説した「週44時間特例(常時10人未満の商業・飲食等)」の対象事業場であっても、1週間単位の非定型的変形労働時間制を導入する場合は特例が排除され、週の上限は必ず40時間となります(労基法第40条・第32条の5)。
「うちは小規模飲食店だから週44時間まで使えるはず」という誤解が非常に多いため、ご注意ください。

コラム 「週44時間制(特例措置対象事業場)の全体像」はこちら


② 就業規則への規定

労使協定の届出だけでは不十分です。常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則に本制度を適用する旨を明記することが相対的必要記載事項として義務付けられています(労基法第89条)。

重要な注意点

10人未満の事業場でも、労働条件の明確化と労使トラブルの防止のために、就業規則や労働条件通知書等への記載を強くお勧めします。就業規則を整備したうえで、所轄の労働基準監督署への届出も忘れずに行ってください。


③ 1週間ごとの「書面による事前通知」

この制度の最大の特徴であり、運用上最も注意が必要なポイントです。

  • 各日の労働時間は、原則として前週末までに書面(またはメール等の電磁的方法)で労働者に通知しなければなりません(労基則第12条の5第2項)。口頭での通知は認められません。
  • 「天気が良くて混みそうだから今日は10時間働いてほしい」といった当日の急な変更は違法です。
  • 例外的に変更が認められるのは、台風などの自然災害や突発的な事故など、客観的にやむを得ない事由がある場合に限り、前日までに書面等で通知した場合のみです。「予想より客が来そう・来なさそう」といった会社側の主観的な都合による変更は認められません。

「仕入れの都合で急きょ営業短縮せざるを得ない」など、判断に迷うケースも実務上よくあります。グレーゾーンと感じたら、事前に社会保険労務士に相談されることをお勧めします。**


時間外労働(残業代)の考え方

制度を導入すれば残業代がゼロになるわけではありません。時間外労働の判定は2段階で行います。

【第1段階:日単位の判定】

  • 事前通知で8時間超と定めた日 → その所定時間を超えた分
  • 事前通知で8時間以内と定めた日 → 8時間を超えた分

【第2段階:週単位の判定】

  • 1週間の実労働時間のうち、日単位でカウント済みの時間を除き、週40時間を超えた分

【具体例】

  • 「月10時間・火8時間・水7時間・木8時間・金7時間」と事前通知(合計40時間)
  • 実際に月曜日に11時間働いた場合、超過した1時間は時間外労働となり、25%以上の割増賃金が必要です。週の合計が40時間を超えた場合も同様です。

36協定との関係

協定届(様式第5号)を提出すれば何でもできるわけではありません。事前通知した所定労働時間(1日最大10時間・週最大40時間)をさらに超えて働かせる場合、または法定休日に働かせる場合は、別途36協定の締結・届出が必要です。

1週間単位の非定型的変形労働時間制の協定届と36協定は別物です。両方の整備が必要な点を忘れないようにしてください。


他の変形労働時間制との比較

比較項目1ヶ月単位1週間単位(非定型)
対象業種制限なし小売・旅館・料理・飲食のみ
規模要件制限なし常時30人未満
シフトの決め方月初に各日を特定毎週前週末に書面通知
1日の上限上限なし(任意)10時間
週44時間特例適用可適用不可(週40時間厳守)
向いているケース月単位で繁閑が読める日ごとの繁閑が読めない

※「月単位でおおよそ繁閑が読める」なら1ヶ月単位、「天気や予約次第でその週になるまでわからない」なら1週間単位が向いています。


おわりに

制度は「正しく使う」ことで初めて武器になる

22年にわたり250社以上の労務管理に伴走してきた経験から、痛感していることがあります。

労働時間に関する制度は、知っているかどうかで経営の自由度がまったく変わる
1週間単位の非定型的変形労働時間制は、飲食・旅館・小売業にとって非常に実用的な制度です。しかし書面通知の徹底・週40時間の厳守・就業規則の整備・36協定との併用など、正しく運用するためのルールは細かく、かつ厳格です。
ひとつでも漏れると、労働基準監督署の指導対象になるリスクがあります。

上岡ひとみ経営労務研究所は、鹿児島県指宿市を拠点に、250社を超える企業様の労務管理を22年にわたりサポートしてきた社会保険労務士事務所です。

飲食・小売・福祉など、地域に根ざした小規模事業場の労務問題を得意としており、「変形労働時間制の導入・見直し」「就業規則の整備」「36協定の締結サポート」まで、ワンストップで対応いたします。 「うちのシフト体制、このままで法的に問題ないか確認したい」「変形労働時間制を導入したいが、何から始めればいいかわからない」——そんな経営者様のご相談を、いつでもお待ちしております。


目次