遅刻・早退の給与控除でやってはいけない「端数処理」の落とし穴

正しい計算ルールと実務対策
遅刻・早退の控除、正しく計算できていますか?
1. はじめに
その「端数処理」、実は違法かもしれません
従業員が5分遅刻したとき、「計算がラクだから」と15分遅刻とみなして給与を差し引いていませんか。
こうした「端数処理(丸め処理)」は、昔からの慣習で行われがちです。しかし実は法律違反にあたる可能性があり、放置すると未払い賃金トラブルに発展しかねません。
このコラムでは、遅刻・早退控除の正しいルールと、実務の負担を抑えながら法律を守る方法を解説します。
2. 根拠となる2つの法律
ノーワーク・ノーペイの原則
遅刻・早退で働かなかった時間分の給与を差し引くこと自体は、民法第624条「ノーワーク・ノーペイの原則」(働かなかった時間分は賃金を支払わなくてもよい)により問題ありません。
しかし、ここで立ちはだかるのが労働基準法第24条の「賃金全額払いの原則」です。
賃金全額払いの原則
問題は「差し引き方」です。労働基準法第24条「賃金全額払いの原則」は、働いた分の給与を全額支払うよう義務付けています。
過去の裁判例では、出社・退社時の点呼や移動にかかる合計80秒という極めて短い時間についても、それが使用者の指揮命令下にある限り労働時間として認定され、賃金の支払い義務が肯定されました。
東京急行電鉄事件
労働時間は1分単位で計算するのが原則であり、遅刻・早退控除でも、実際の不就労時間(働かなかった時間)を超えて給与を差し引くことは認められません。
3. 「切り上げ控除」が招く法的リスク
「計算を楽にしたい」「遅刻の抑止力にしたい」という理由で控除時間を切り上げる運用は、原則違法です。
たとえば5分遅刻した従業員から15分相当を控除した場合、実際に働かなかったのは5分だけ、残り10分は実際に働いているにもかかわらず給与を差し引かれたことになります。
これは労働基準法24条違反にあたり、同法120条に基づく刑事罰(30万円以下の罰金)の対象になり得ます。
医師の超過勤務時間を「15分未満切り捨て」としていた運用が争われた裁判例では、専門性の高い職種であることを理由にした適法性の主張は退けられ、未払い賃金の支払いが命じられています。丸め処理そのものが免罪符にはならないという事例です。
(名古屋地裁 平成31年2月14日判決)
4. 認められている端数処理との混同に注意
「端数処理は通達で認められている」と聞いたことがある方もいるでしょう。確かに厚生労働省の通達(昭和63年3月14日基発150号)により、事務簡便化のための例外的な端数処理は認められています。
ただし、通達で許容されているのは、「1ヶ月の時間外労働・休日労働・深夜労働それぞれの合計時間」に限られ、30分未満切り捨て・30分以上切り上げというルールです。
「遅刻や早退の控除」や「日々の労働時間の切り捨て」に適用することは、この通達の対象外です。
また、控除額の計算で生じる1円未満の端数についても、支給額なら四捨五入等が可能ですが、控除額は労働者に不利にならないよう「切り捨て」が原則です。
5. 「減給の制裁」との違いと上限ルール
経営者目線で見れば、度重なる遅刻に対して「控除だけでなく、何らかのペナルティを与えたい」と悩むのは当然のことです。
不就労分を超えて給与を差し引きたい場合は、単なる控除ではなく懲戒処分「減給の制裁」として扱う必要があります。
「減給の制裁」を行うには、就業規則に明記していることが大前提です。さらに労働基準法第91条により、「1回の減給額は平均賃金1日分の半額以内」「総額は一賃金支払期の賃金総額の10分の1以内」という厳格な上限があります。
上限を超える減給は違法です。遅刻時間を切り上げて事実上の「罰金」として給与から差し引く運用は、企業にとって大きなリスクになります。
6. 今日からできる実務対策
法律が求める「1分単位での正確な処理」を手作業やExcelで行うのは、担当者にとって大きな負担です。企業を守りながら実務を効率化するには、次の対策が有効です。
- 勤怠管理システムで丸め機能をオフに:
クラウド型の勤怠管理システムを導入し、打刻時刻をそのまま1分単位で自動集計する仕組みを作りましょう。手計算のミスや違法な丸め処理を防げます。 - 就業規則・賃金規程を明確化:
控除の対象に「基本給」だけでなく「役職手当」などの各種手当を含めるかどうかを、規程に明記しておきましょう。 - 最低賃金割れのチェック:
控除後の時給換算額が都道府県の最低賃金を下回っていないか、特に月給が最低賃金水準に近い従業員は確認しましょう。
7. まとめ:まずは現状のルールを見直しましょう
労働基準法は強行法規であり、「知らなかった」「本人の同意があった」は通用しません。1分単位の管理は厳しく感じるかもしれませんが、未払い賃金訴訟や是正勧告といった経営リスクを防ぐ最強の備えになります。
自社の就業規則やタイムカードの集計ルールに心当たりがある方は、まずは現状を点検することから始めてみませんか。
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