業務災害の認定要件である業務遂行性と業務起因性とは?

2023年12月1日

労災事故のイメージ画像

労働者が仕事中にケガをした場合、そのケガが労災保険の対象となるには、特定の要件が必要です。この要件の中でも特に重要なのが、「業務遂行性」と「業務起因性」です。これらについて詳しく説明します。

Q. 会社で業務中にケガをした場合に労災保険の業務災害として認定を受けるためには、そのケガに「業務遂行性」と「業務起因性」がなければならないとされていますが、これらは具体的にどのようなことを言うのでしょうか?

A. 業務災害とは、労働者の業務上の負傷(ケガ)や疾病、障害、死亡のことを言いますが、会社や作業現場で発生した災害について業務災害と認定するのかどうかの判断は労働基準監督署が行うことになっています。

労働基準監督署から業務災害と認定されるためには、ご認識のとおり、まず、前提条件として「業務遂行性」があり、かつ、「業務起因性」がなければなりません。


労働基準監督署から業務災害と認定されるためには

労働基準監督署から業務災害と認定されるためには、前提条件として「業務遂行性」があり、かつ「業務起因性」がなければなりません。

「業務遂行性」がなかったと判断されれば、その時点で業務災害とは認定されませんし、「業務遂行性」があったと判断されても、次に「業務起因性」がなかったと判断されれば、やはり、業務災害とは認定されないということです。

なお、労災保険には業務災害のほかに通勤災害に関する保険給付もあり、また、業務災害には業務上の負傷のほかに、業務上の疾病や障害、死亡も含まれます

今回は、最も発生率が高いと思われる、業務上の負傷についての「業務遂行性」と「業務起因性」について解説します。


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さらに詳しく…

業務遂行性とは?

「業務遂行性」とは、災害が発生した時に該当労働者が労働契約に基づいて事業主の支配下、管理下にあったことを言います。


ある会社の従業員が業務中に会社や作業現場でケガをしたのであれば、そのケガは該当従業員が事業主の支配下、管理下にあった状況での災害と言えるため、通常は「業務遂行性」はあったと判断されるでしょう。

厚生労働省では、この「業務遂行性」について次の3つの類型に分けて説明しています。

①事業主の支配下・管理下で業務に従事している場合

まず、こちらは、従業員が通常どおり会社や作業現場で業務に従事しているという、完全に事業主の支配下、管理下にあったと言えるケースです。ちなみに、従業員が業務中にトイレに行ったり、水を飲んだりする時間も原則として事業主の支配下、管理下にあったと判断されます。これは、トイレに行くことなどは生理的な行為として業務に付随する行為であり、一時的に業務を中断しただけであって業務中とみなされるからです。

②事業主の支配下・管理下にあるが業務に従事していない場合

こちらは、休憩時間中や就業時間前後のように従業員が会社や作業現場にはいるものの、業務には従事していないというケースです。このような時間でも従業員が会社や作業現場にいる限りは、次で説明する「業務起因性」があったのかなかったのかどちらの判断がなされるのかは別として、事業主の支配下、管理下にはあったと判断されます。

③事業主の支配下にあるが管理下を離れて業務に従事している場合

こちらは、例えば、従業員が出張や営業活動などのために外出しているケースです。

そもそも、出張や営業活動などのための外出は、事業主の命令を受けて行っているものであるため、外出先で積極的な私的行為を行うなどの特段の事情がない限りは、事業主の管理下からは離れているものの、支配下にはあったと判断されます。


業務起因性とは?

「業務起因性」とは、上記で説明した「業務遂行性」があったことを前提として、発生した災害が業務に起因して起こったものであることを言います。


上記で説明した「業務遂行性」の3つの類型別に「業務起因性」もあったと判断されるのかどうかについては次のとおりです。

①事業主の支配下・管理下で業務に従事している場合

このケースで「業務遂行性」があったと判断されれば、発生した事故について業務上と認め難い事情などがない限りは「業務起因性」もあったと判断されます。

なお、業務上と認め難い事情とは、例えば、従業員が業務中に私的行為やいたずらなどによって事故が発生したような場合のことであり、このような場合には、「業務起因性」はなかったと判断されます。

②事業主の支配下・管理下にあるが業務に従事していない場合

このケースは、上記で説明したとおり、休憩時間中や就業時間前後の時間帯を指します。 「業務遂行性」はあったと判断されても、この時間帯の従業員の行為は業務ではなく私的行為になるため、その私的行為が原因で災害が発生したとしても、原則として「業務起因性」はなかったと判断されます。

ただし、例えば、従業員が昼休みの時間になり、社内にある社員食堂に移動している途中に階段で足を滑らせてケガをしたような場合には、会社の施設や設備などがもとでケガをしたものとして「業務起因性」はあったと判断されることがあります。

③事業主の支配下にあるが管理下を離れて業務に従事している場合

上記の①と同様にこのケースで「業務遂行性」があったと判断されれば、発生した事故について特にこれを否定すべき事情がない限りは「業務起因性」もあったと判断されます。

なお、否定すべき事情とは、例えば、出張先のホテルの近くにある居酒屋でお酒を飲み過ぎて泥酔し、ホテルに戻る途中でケガをしたような場合には、「業務起因性」はなかったと判断されるでしょう。


専門家からのひとこと

今回は、業務上の負傷(ケガ)についての「業務遂行性」と「業務起因性」について説明しましたが、実際のところ、どのような状況であれば、業務災害と認定されるのかについてはケースバイケースとしか言えません。

労災保険に関する各種保険給付の請求手続きは、法令上は事故に遭った従業員本人または遺族が行うことになっているものの(会社にはその「助力」が求められている。)、多くの会社では会社が窓口になって請求手続きを行っていると思いますし、その方が従業員のためでしょう。

ただし、もし、自社で発生した事故について、会社としては業務災害とは認定されないであろうと思ったとしても、会社が勝手に請求手続きをしないという判断はせず、必ず労働基準監督署に相談するようにしてください。

所長解説

請求手続きについては、必ず労働基準監督署に相談するようにしてください。


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